ADHDの記憶力が低い理由とワーキングメモリの関係を解説

ADHDの記憶力が低い理由とワーキングメモリの関係を解説のアイキャッチ画像

「さっき聞いたことをすぐ忘れてしまう」「メモを取っても後で見返せない」。ADHDの人に多いこの悩みは、記憶力そのものの問題ではなく、ワーキングメモリの特性が大きく関係しています。

ワナちゃん
ワナちゃん

私、ADHDなんだけど、人から話しかけられた瞬間に前の作業を忘れちゃうんだよなあ。記憶力が悪いのかなって思ってた。

この記事では、ADHDの記憶力とワーキングメモリの仕組み、仕事での困りごと、そして覚えなくていい仕組みの作り方を解説します。

ADHDと記憶力の関係|「記憶力が悪い」は誤解かもしれない

ADHDの記憶の問題は「記憶力が低い」という単純な話ではありません。ここでは、ADHDと記憶の関係をわかりやすく解説します。

ADHDの記憶の問題は「注意」と「ワーキングメモリ」にある

ADHDの人が「物忘れが多い」と感じる背景には、主に注意機能の弱さとワーキングメモリの容量の小ささがあります。記憶力(長期記憶・暗記力)そのものは平均的か、むしろ得意な分野もあることが多いです。

ADHDは、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン)の働きの違いにより、注意を持続させることや順序立てて行動すること(発達障害ナビポータル)が難しくなる状態です。この「注意の弱さ」が、情報を脳内で処理しきれないまま流してしまう原因になります。

厚生労働省「こころの耳:注意欠陥性多動障害(ADHD)用語解説」によれば、ADHDは12歳以前から注意・多動・衝動制御の困難があり、学校・家庭・職場など複数の場面で困難が現れる状態とされています。

つまり、「聞いたことをすぐ忘れる」のは記憶の書き込みが弱いのではなく、そもそも注意が向いていなかった情報は記憶に入れられないという仕組みによるものです。

ワーキングメモリとは|脳の「作業台」の働き

ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら、同時に別の処理をおこなう脳の働きのことです。「脳内の作業台」や「頭の中のメモ帳」とも呼ばれます。

たとえば、指示を聞きながらメモを取る、電話しながら別の情報を検索する、複数の手順を頭に入れながら作業を進める—これらはすべてワーキングメモリを使った行動です。

単なる「短期記憶(一時的に覚えておくこと)」と異なり、ワーキングメモリは覚えながら作業する点が特徴です。容量が小さいと、複数の情報を同時に扱う場面で情報がこぼれ落ちてしまいます。

ADHDはワーキングメモリが低いことが多い理由

ADHDの方はマルチタスクが苦手な傾向があるため、ワーキングメモリの容量が小さくなりやすいといわれています。脳の「実行機能」(前頭前野が担う計画・整理・切り替え)の弱さが、ワーキングメモリの働きに影響するためです。

ADHDのタスク管理術|抜け漏れを防ぐコツとツールのアイキャッチ画像 ADHDのタスク管理術|抜け漏れを防ぐコツとツール

ただし、興味関心が強い分野では驚くほど集中し、記憶処理がスムーズになるという特性もあります。「好きなゲームのデータは完璧に覚えているのに、仕事の指示はすぐ忘れる」という経験は、まさにこの特性を示しています。

ADHDの記憶力の特徴|長期記憶と短期記憶の違い

ADHDの記憶の特徴は一様ではありません。ここでは、ADHDの記憶力について「苦手な面」と「得意な面」の両方を解説します。

ワナちゃん
ワナちゃん

仕事の手順は覚えられないのに、好きなゲームのルールはすぐ覚えられるんだよね…。この差ってなんなんだろう?

ワークさん
ワークさん

それはADHDの特性そのものなんですよ。興味がある情報はワーキングメモリへの入力がスムーズになるんです。

短期記憶・ワーキングメモリが苦手な理由

ADHDの短期記憶やワーキングメモリが苦手な主な理由は次の通りです。

ADHDのワーキングメモリが弱くなる主な要因
  • 注意が散りやすく、情報を「入力」する前に注意が切れる
  • 前頭前野の実行機能(計画・整理・切り替え)が働きにくい
  • 複数の情報を同時に処理するマルチタスクが苦手
  • 興味・関心が向かない情報は特に記憶されにくい

一方、一度覚えた情報を長期記憶として保持する力は比較的保たれていることが多いです。「昔のことはよく覚えているが、今日の出来事はすぐ忘れる」という傾向がある方は、このパターンに該当する可能性があります。

ADHDに記憶力が「良い」面もある

ADHDの記憶力には苦手な面だけでなく、強みになる特徴もあります。注意が向いたとき・没頭できるときの記憶処理は非常に高速になることがあります。

ADHDの記憶力が「良い」面
  • 強い興味関心がある分野では驚くほど細かい情報まで覚えられる
  • 過集中状態のときは大量の情報を短時間で吸収できる
  • エピソード記憶(印象的な体験の記憶)が鮮明に残りやすい
  • 視覚・映像的な記憶(見たものをそのまま覚える)が得意な人もいる

この「記憶力の凸凹(でこぼこ)」はADHDの特性そのものです。苦手な場面でのミスを責めるより、「得意な記憶の使い方」を活かした仕組みを作ることが重要です。

ADHDの記憶力が仕事で引き起こす困りごと

ワーキングメモリの弱さは職場でさまざまな困りごとにつながります。以下では、特によくある場面ごとに解説します。

口頭での指示をすぐ忘れてしまう

会議や打ち合わせで口頭説明を受けた際、メモを取っていても「どの情報が重要だったか」が抜けてしまうことがあります。ワーキングメモリが小さいと、聞きながら書くマルチタスクがそもそも難しくなります。

さらに、話し手が3つ以上の項目を連続して話すと、最初の1〜2個を処理している間に後の項目が消えてしまうという現象が起きます。「3ステップ以上の指示を覚えられない」という体験はこれが原因です。

作業途中でタスクを見失う

何かをしていて別の割り込みが入ったとき、元の作業に戻れなくなることがあります。ワーキングメモリの「作業台」が狭いため、割り込み作業を処理すると元の情報が上書きされてしまうためです。

たとえば「メールを送ろうとしたら電話が入り、電話が終わったらメールのことを完全に忘れていた」という経験は多くのADHDの方が経験しています。

期限や約束を忘れる

「来週の火曜日に報告書を提出する」という情報が脳内に残りにくく、期限直前まで気づかないことがあります。これは不真面目さではなく、時間感覚(タイムブラインドネス)とワーキングメモリの弱さが組み合わさった特性によるものです。

ADHDの就職・転職や仕事の進め方について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

ADHDと仕事|困りごとと対処法・働き方を解説のアイキャッチ画像 ADHDと仕事|困りごとと対処法・働き方を解説

ADHDの記憶力への対処法|「覚えない仕組み」を作る

ADHDの記憶の困りごとには、「記憶力そのものを鍛える」よりも「覚えなくてよい仕組みを作る」ことが現実的で効果的です。以下の対処法を参考にしてみてください。

ワナちゃん
ワナちゃん

「もっとちゃんと覚えなきゃ」って自分を責めてたけど、仕組みで補えばいいんだ。それならちょっとラクになれそう。

ワークさん
ワークさん

そうですよ。「頑張って覚える」じゃなく「頑張らなくてもいい仕組み」を作るのが、ADHDには一番効くんです。

すぐにメモに出す習慣をつける

脳内メモは信頼しないことが基本です。「あとでメモしよう」と思った瞬間に忘れます。情報を受け取ったその場で、すぐに外部に出力する習慣をつけることが有効です。

手書きのノートでもスマホのメモアプリでも、自分が使いやすいツールを1つに絞ることが大切です。複数のメモツールを使い分けるとかえって「どこに書いたか」が分からなくなることがあります。

チェックリストとリマインダーを徹底活用する

毎日のタスクや手順はチェックリスト化しておくと、ワーキングメモリに負担をかけずに作業を進められます。「頭で覚える」から「手を動かして確認する」へ作業スタイルを切り替えることがポイントです。

期限や予定の管理にはスマホのカレンダーアプリやリマインダー機能が有効です。「1日前」「3時間前」「15分前」など複数のアラートを設定することで、タイムブラインドネスをカバーできます。

情報を「小分け」にして受け取る

一度に大量の情報を受け取るとワーキングメモリがあふれます。上司や同僚への「1つずつ確認させてください」という依頼は、合理的配慮の範疇で認められるケースが多いです。

可能であれば、口頭の指示をメールやチャットで「文字でも送ってもらえると助かります」と伝えることで、指示を見返せる形で保管できます。テキスト形式であれば、ワーキングメモリへの依存度が大幅に下がります。

ルーチン化で「考えなくていい状態」を作る

毎日同じ流れで行動できるルーチン(習慣化)は、ワーキングメモリの消耗を大幅に減らします。「毎朝出社したらまずToDoリストを確認する」といった固定パターンを作ることで、「何をすればいいか」を考えるコストが下がります。

持ち物リストや手順書を壁やデスクの見える場所に貼っておくことも有効です。視覚化された情報はワーキングメモリを使わずに確認できるため、ADHDの人に特に向いている方法です。

ADHDの独り言が多い理由と職場での付き合い方のアイキャッチ画像 ADHDの独り言が多い理由と職場での付き合い方

職場での合理的配慮の活用

自助努力の仕組みだけでは難しい場合、職場に適切な配慮を求めることも選択肢の一つです。ここでは、記憶・ワーキングメモリの困りごとに関連する合理的配慮の例を紹介します。

職場に求めやすい配慮の例

障害者雇用促進法に基づく「合理的配慮」として、ADHDの特性に応じた配慮を求めることができます。以下は記憶・ワーキングメモリの困りごとに関連する配慮の例です。

記憶の困りごとに関する合理的配慮の例
  • 口頭の指示をメール・チャットで文字化してもらう
  • 複数の指示を1つずつ順番に伝えてもらう
  • 業務手順書・チェックリストを整備してもらう
  • 期限前日に確認リマインダーを送ってもらう
  • 集中できる席(仕切りや静かな場所)への配慮

合理的配慮の求め方や障害者雇用について詳しくは、以下の記事も参考にしてみてください。

ADHDの就職を成功させる進め方と相談先のアイキャッチ画像 ADHDの就職を成功させる進め方と相談先

オープン就労とクローズド就労の選択

ADHDを開示して就職・転職する「オープン就労」では、上記のような配慮を最初から設計できます。一方、非開示の「クローズド就労」では配慮を求めにくいため、個人の工夫に依存する度合いが高くなります。

ワーキングメモリの困りごとが職場で深刻な場合は、オープン就労の検討が根本的な解決につながりやすいです。就労移行支援を利用することで、自分の特性整理から配慮の伝え方まで支援を受けることができます。

ADHDの記憶力とワーキングメモリに関するよくある質問

ADHDの記憶力についてよくある疑問をまとめました。

ADHDでも記憶力が良い人はいますか?
います。興味関心がある分野や、過集中が発動する領域では驚くほど細かく記憶できる人もいます。ADHDは記憶力全体が低いのではなく、「注意が向いた情報は記憶できる・向かなかった情報は入力されない」という特性があります。
ADHDのワーキングメモリは鍛えられますか?
脳トレや繰り返し練習でわずかに改善する可能性はありますが、劇的な向上は難しいとされています。それよりも「メモ・チェックリスト・リマインダー」などの外部ツールで補う仕組みを作ることが、現実的に有効です。
ADHDの記憶の問題は薬で改善しますか?
ADHD治療薬(コンサータ・ストラテラ等)は注意機能を改善し、ワーキングメモリの働きが向上する場合があります。ただし薬の効果には個人差があり、環境調整や行動面の工夫との組み合わせが重要です。診断・治療については医療機関にご相談ください。
ADHD の記憶力低下は加齢で悪化しますか?
ADHD の特性そのものは変化しにくいとされていますが、加齢やストレス・睡眠不足によりワーキングメモリの働きが一時的に低下することはあります。規則正しい生活習慣の維持が、記憶機能のベースを保つ上で重要です。
ADHDの物忘れは認知症と関係がありますか?
ADHDの物忘れは、注意機能とワーキングメモリの問題であり、認知症(記憶の消失)とは異なります。ただし自己判断は難しいため、物忘れが急増したり日常生活に支障が出る場合は、医療機関で相談することをお勧めします。

まとめ

ADHDの記憶力の問題は「記憶力が低い」のではなく、注意機能の弱さとワーキングメモリの容量の小ささに起因します。興味関心が向く分野では驚くほど記憶できる一方、そうでない情報はそもそも「入力されない」という特性があります。

仕事での困りごとには、「覚えない仕組み(メモ・チェックリスト・リマインダー・ルーチン化)」を作ることが最も効果的です。また、職場での合理的配慮を活用することで、根本的なサポート体制を整えることも検討してみてください。本記事はワナワーク編集部(キャリア相談歴8年・国家資格キャリアコンサルタント保有)が執筆・監修しています。

ワークさん
ワークさん

特性を「直す」のではなく「使いこなす」視点が大切ですよ。困りごとが続くようなら、専門機関への相談も選択肢にしてみてくださいね。

ADHDの仕事での困りごとや仕事選びについては、以下の記事もあわせてご覧ください。

ADHDで仕事ができない原因と対処法を解説する記事のアイキャッチ画像 ADHDで仕事ができない原因と対処法を解説 ADHDの対策10選|仕事と日常でできる工夫のアイキャッチ画像 ADHDの対策10選|仕事と日常でできる工夫

ADHDカテゴリの記事一覧は、ADHDの仕事・就職についてまとめたページからご覧いただけます。

ADHDと嘘|なぜそう見える行動が起きるのか解説のアイキャッチ画像 ADHDと嘘|なぜそう見える行動が起きるのか解説
この記事の監修者

ワナワーク編集部

ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。

本記事の免責事項

本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。