「香水やタバコのにおいで気分が悪くなる」「職場のランチのにおいが辛くて仕事に集中できない」。アスペルガー(ASD)のある人には、こうした嗅覚過敏の困りごとを抱える方が多くいます。

友達のハルくん、ASDで特定のにおいがものすごく苦手らしくて。職場のにおいが辛くて休職しちゃったって聞いて、気になってるんだよなあ。
この記事では、アスペルガー(ASD)に多い嗅覚過敏の原因・症状・日常生活と仕事での具体的な対処法をわかりやすく解説します。
アスペルガー(ASD)における嗅覚過敏とは
ここでは、嗅覚過敏の基本的な特徴と、アスペルガー(ASD)との関係について解説します。
嗅覚過敏の特徴と症状
嗅覚過敏とは、においに対して強い感受性を持ち、多くの人が気にならない程度のにおいでも、不快感や体調不良を感じてしまう状態のことです。発達障害のない人に比べて、においの閾値(感じ始める強さ)が低く、脳内でにおい情報が過剰に処理されると考えられています。
主な症状としては、特定のにおいがすると吐き気・頭痛・めまいが起きる、においを嗅ぐだけで気分が落ち込む、においが気になって他のことに集中できなくなる、などがあります。苦手なにおいの種類は人によって大きく異なり、香水・柔軟剤・食べ物・タバコ・汗のにおいなどが多く挙げられます。
ASD(アスペルガー)と嗅覚過敏の関係
ASD(自閉スペクトラム症)には、感覚処理の特異性がみられることが多く、嗅覚過敏はその一つです。発達障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)によると、発達障害のある人の多くが視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚に関する感覚の問題を抱えており、タバコや香水など特定の苦手なにおいへの嗅覚過敏も報告されています。
2013年に改訂されたDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、感覚過敏・感覚鈍麻を含む「感覚入力に対する過敏性または鈍感性」が、ASDの診断基準に正式に加わりました。つまり嗅覚過敏はアスペルガー・ASDの特性として公式に認められているということです。国立精神・神経医療研究センターのこころの情報サイト「発達障害(神経発達症)」でも、ASD(自閉スペクトラム症)の特徴として感覚の過敏さが挙げられています。
嗅覚過敏とASDの脳の特性
嗅覚は「におい分子」が鼻の嗅覚受容体に届き、大脳辺縁系(感情・記憶をつかさどる領域)に直結して処理されます。他の感覚に比べて感情と直結しやすいため、嫌なにおいへの反応が強い感情的苦痛につながりやすい特徴があります。
ASDでは脳内の感覚フィルタリング機能(不要な刺激を無視する働き)が弱い傾向があると言われています。このため、周囲の人が「気にならない」レベルのにおいでも、ASDのある人には強烈な刺激として処理されてしまうことがあります。感覚過敏の程度には大きな個人差があり、「過敏な感覚」と「鈍感な感覚」が同じ人に共存することもあります。

ハルくん、「わがままって思われてそうで言いづらい」って悩んでたなあ。特性のせいだって知らなかったんだろうなあ。

嗅覚過敏はASDの診断基準にも含まれている特性なんですよ。「わがまま」ではなく、脳の特性による困りごととして理解することが大切です。
アスペルガーの嗅覚過敏が起きやすいにおいの種類
以下では、アスペルガー・ASDのある方が苦手に感じやすいにおいの代表的な種類を紹介します。
柔軟剤・香水・制汗剤などの人工的なにおい
嗅覚過敏のある方が特に苦手とするにおいとして、柔軟剤・香水・制汗剤・整髪料などの人工的な化学物質のにおいが多く挙げられます。これらは近年「スメルハラスメント」としても注目されており、においの感じ方の個人差が社会的に認識され始めています。
電車や会議室など閉鎖空間では、こうしたにおいが集中して漂うため、通勤・通学や会議への参加が特に辛くなりやすいです。においを発している人に悪意はなくても、本人にとっては集中力の著しい低下や体調不良につながることがあります。
食べ物・調理のにおい
職場の昼食時に漂う弁当・食堂のにおい、調理のにおいに強い不快感を覚える方も多くいます。同僚が食べているもののにおいが気になって業務が手につかなくなる、食堂に入れずお昼休みを外で過ごすほかない、といった困りごとにつながることがあります。
食べ物のにおいへの過敏さは、ASDでよくみられる偏食とも関連しています。嗅覚・触覚・視覚が複雑に絡み合って特定の食べ物への苦手意識が生まれるケースも少なくありません。
タバコ・汗・体臭などの生活臭
タバコのにおいは嗅覚過敏のある方にとって特に強い苦痛の源となりやすいです。喫煙エリア周辺・喫煙後の人が近くにいるだけで気分が悪くなることがあります。また汗・体臭・加齢臭なども、他の人には「たいしたことのないにおい」でも、嗅覚過敏のある方には非常に強烈に感じられることがあります。
公共交通機関での通勤では、これらが複合的に重なることも多く、職場に着く前から疲弊してしまうことが少なくありません。体力的に消耗した状態での就業は、業務パフォーマンスにも影響を与えます。
アスペルガーの嗅覚過敏が日常生活に与える影響
ここでは、嗅覚過敏がある方の日常生活でどのような困りごとが起きやすいか解説します。
通勤・移動中の疲弊
電車やバスの車内では、多くの人のにおいが密集して漂います。混雑した車内での通勤は、においへの強い不快感によってエネルギーを大幅に消耗させ、職場到着時にはすでに疲労した状態になってしまうことがあります。
このような「通勤疲労」は、ASDのある方が仕事を続けていく上で大きな障壁になりやすい問題です。体力的・精神的な消耗が蓄積されることで、仕事への集中力や意欲にも影響が出やすくなります。
職場・学校での集中力の低下
強いにおいが気になると、思考が中断されて業務に集中できなくなります。においが気になり続ける状態では、ワーキングメモリ(短期記憶)のリソースがにおいへの対処に割かれてしまい、本来の業務に使えるリソースが減ってしまいます。
「においがするたびに作業が止まる」「においが不快で気分が悪くなり早退せざるを得ない」といった体験を繰り返すことで、職場環境への強いストレスが蓄積されることがあります。
外食・人との食事が困難になる
飲食店の強いにおいや、隣のテーブルの料理のにおいが気になって外食できないという方も少なくありません。職場での昼食の場面でも、周囲のにおいによって食欲を失ったり、席を離れなければならなかったりすることがあります。
「食事の誘いを断り続けると人間関係が悪化するのでは」という不安を抱えながら、においが苦痛な場所に無理して同席する状況が続くと、二次的なストレスやメンタル不調につながるリスクがあります。
周囲の理解が得られにくい困りごと
嗅覚過敏は「においが苦手」という点で、周囲からは「単なる好み」「潔癖症なのでは」と捉えられやすく、ASDの特性として理解されにくいことがあります。「そんなに気にしなければいい」「気のせいじゃない?」と言われて傷つく経験をした方も多いです。
においの感じ方は外から見えないため、「なぜそんなことで席を離れるのか」と職場での誤解につながることも少なくありません。周囲への説明や、合理的配慮の申請のハードルが高く感じられることも、当事者の孤立感につながる要因となっています。

ハルくんも「わかってもらえなかった」ってしょんぼりしてたなあ。自分でも苦しいのに、なんで?って言われるのが一番辛いって。

嗅覚過敏は「気のせい」ではなく特性として実在します。次の章では具体的な対処法を見ていきましょう。
アスペルガーの嗅覚過敏への日常生活での対処法
ここでは、嗅覚過敏の困りごとを日常生活で和らげるための具体的な方法を紹介します。
防臭マスク・不織布マスクの活用
嗅覚過敏への対処として最もシンプルで効果的な方法の一つがマスクの着用です。活性炭を使用した防臭マスクは、生ごみ・体臭・化学物質などのにおいを吸着して遮断する効果があります。
通勤電車・職場・飲食店など、においが気になる場面でのマスク着用は、においの入力量を物理的に減らす手段として有用です。また、自分が好きなにおいをつけたハンカチや布を携帯し、苦手なにおいが漂う場面で鼻に当てる方法も一定の効果があると報告されています。
においの少ない環境を意識して選ぶ
日常生活では、においの少ない環境を意識的に選ぶことも重要な対処法です。外食であれば禁煙かつ換気の良いお店を選ぶ、昼食は屋外や換気の良い場所でとるなど、行動の選択肢を増やしておくことが助けになります。
自宅の環境についても、洗濯洗剤・柔軟剤・シャンプーなどは無香料タイプを選ぶ、芳香剤・消臭スプレーは使用しない・最小限にするといった工夫で、生活の中の「においのベースライン」を下げることができます。においの刺激量が減ることで、体力的な消耗を減らしやすくなります。
外出時に見通しを立てておく
ASDのある方には「先の見通しが立つと安心できる」という特性を持つ方も多く、嗅覚過敏への対処でもこの考え方が役立ちます。外出前に「においが多い場面はどこか」「逃げ込める場所(換気の良い場所・屋外)はどこか」をあらかじめ確認しておくことで、不意打ちで強いにおいに遭遇したときのパニックを和らげやすくなります。
また、においが辛くなったときに休憩できる場所(トイレ・屋外・別の部屋など)をあらかじめ把握しておくことも、安心感につながります。
アスペルガーの嗅覚過敏への仕事での対処法
ここでは、アスペルガーの嗅覚過敏を抱えながら仕事を続けていくための具体的な方法を解説します。
リモートワーク・在宅勤務の活用
嗅覚過敏に対して最も根本的な対処策の一つが、在宅勤務・リモートワークの導入です。においの発生源(他の人・食べ物・喫煙室など)を物理的に排除できるため、においへの苦痛を大幅に軽減できます。
通勤の負担がなくなることで、出社時に消耗していたエネルギーを仕事に使えるようになる効果もあります。週5日の完全在宅が難しくても、においが特に集中する混雑時間帯や繁忙期のみリモートワークを活用するなど、部分的な活用でも改善が見込まれます。
ASDの就労支援に詳しい記事も参考になります。
職場での合理的配慮を申請する
障害者雇用促進法に基づき、事業主は障害のある従業員からの合理的配慮の申し出に対応する義務があります(2024年4月より中小企業も義務化)。嗅覚過敏への合理的配慮の例としては、以下のようなものが考えられます。
- デスクの位置を換気口・窓の近くに変更する
- 昼食時にずらし休憩を取る・別の場所で食事できるよう配慮を求める
- 在宅勤務の日数を増やす
- 職場での香水・強い香りのする柔軟剤の使用を控えるよう周知を依頼する
- においが強い会議室や場所での会議をオンラインに切り替える
合理的配慮の申請では、自分の困りごとを具体的に説明できることが重要です。「においで吐き気・頭痛が起きる」「集中力が著しく低下する」など、困りごとの内容と影響を言語化しておきましょう。
においの少ない職場環境・仕事を選ぶ
転職・就職の際に職場環境のにおいを意識して選ぶことも、長期的な観点から重要な対処策です。嗅覚過敏のある方に比較的向いている職場環境・職種の特徴としては、以下が挙げられます。
- リモートワーク可・フルリモートの職場
- 個室・半個室の作業スペースがある職場
- 飲食物を持ち込まない清潔なオフィス環境
- 換気が良い・空気清浄機が設置されている
- 接客・飲食業など食べ物や化粧品のにおいが多い職場は避けるとよい場合がある
面接・見学時にオフィス環境を事前に確認する、または内定後に「感覚過敏がある」ことを伝えて職場環境を確認することも選択肢の一つです。ASDの方の向いている仕事については、以下の記事も参考にしてみてください。
アスペルガーの嗅覚過敏と支援機関の活用
ここでは、嗅覚過敏を含むASDの感覚過敏の困りごとに対応できる支援機関について解説します。
発達障害者支援センターへの相談
各都道府県には発達障害者支援センターが設置されており、発達障害のある方やその家族からの相談を無料で受け付けています。嗅覚過敏を含む感覚過敏の困りごと・仕事への影響・職場での配慮のお願いの仕方などについて専門スタッフに相談できます。
診断を受けていない方でも相談は可能なケースがあります。「自分の困りごとがASDの特性によるものなのか確認したい」という段階から相談してみることができます。
就労移行支援の利用
就労移行支援事業所は、障害のある方の就職・転職をサポートする支援機関です。嗅覚過敏をはじめとする感覚過敏の困りごとについても、自分に合う職場環境の特定・合理的配慮の申請方法・面接での伝え方など、就労に向けた実践的なサポートを受けられます。
就労移行支援は多くの場合、雇用保険・社会保険の支払い期間が一定以上あれば、費用の大部分が公費でまかなわれます(収入に応じた自己負担あり)。就労移行支援について詳しくは以下の記事を参考にしてみてください。
医療機関(精神科・神経科)での相談
嗅覚過敏の症状が強く、日常生活や就労に深刻な影響が出ている場合は、医療機関(精神科・神経科・心療内科)への相談も選択肢の一つです。ASD・感覚過敏に詳しい医師に診てもらうことで、診断書・意見書の作成、適切な支援サービスの紹介などが得られる場合があります。
また、感覚過敏に関連したASDの二次障害(不安障害・うつなど)が見られる場合、薬物療法や心理療法の選択肢について医師と相談することができます。ただし、医療的な判断・治療については専門の医療機関にご相談ください。
ASDの他の感覚過敏との関係
ASDでは嗅覚以外にも感覚の困りごとがみられることがあります。ここでは、他の感覚過敏との関係について簡単に解説します。
聴覚過敏・視覚過敏との重複
ASDのある方の中には、嗅覚過敏と同時に聴覚過敏(特定の音が辛い)・視覚過敏(光・映像が眩しすぎる)なども持つ方が多くいます。複数の感覚過敏が重なると、職場や公共の場での感覚的な負担がさらに大きくなります。
「なんとなく場所にいるだけでぐったりする」という感覚的な疲弊感(感覚的過負荷)は、複数の感覚が同時に過負荷になっていることが原因の場合があります。感覚過敏のある方が働きやすい環境選びのためにも、自分がどの感覚に過敏かを整理しておくことが役立ちます。
感覚過敏と感覚鈍麻が同時にある場合
ASDでは、「においには過敏だが、痛みには鈍感」のように、過敏と鈍麻が同じ人に共存するケースも少なくありません。感覚の特性は一人ひとり異なるため、自分のパターンを知ることが適切な対処法の選択につながります。
「なぜこんなにおいが自分だけ気になるのか」と悩んでいたことが、ASDの感覚特性だとわかると、自己理解が深まり対処法を考えやすくなることがあります。ASDの特性全般について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
嗅覚過敏 アスペルガーに関するよくある質問
嗅覚過敏とアスペルガー(ASD)についてよく寄せられる質問に答えます。
- アスペルガーの人は必ず嗅覚過敏がありますか?
- 全員にあるわけではありません。感覚過敏の種類・程度は個人差が大きく、嗅覚に過敏な人もいれば聴覚・触覚に強く過敏な人もいます。嗅覚過敏がないASDの方もいます。
- 嗅覚過敏はASD以外でも起きますか?
- はい。嗅覚過敏はASD・ADHDなど発達障害の特性として起きる場合のほか、ストレス・疲労・てんかん・片頭痛・化学物質過敏症などが原因で起きることもあります。
- 嗅覚過敏を職場に伝えるべきですか?
- 伝えることで合理的配慮(席の変更・在宅勤務・昼食場所の配慮など)を受けやすくなります。話しやすい上司・産業医・人事への相談から始めるのがおすすめです。
- 嗅覚過敏はマスクで本当に改善しますか?
- においの入力量を物理的に減らす効果があります。活性炭入りの防臭マスクは特に効果が高いと報告されています。ただし完全に遮断するわけではなく、他の環境調整と組み合わせることが効果的です。
- 嗅覚過敏の相談はどこにすればいいですか?
- 発達障害者支援センター(無料・各都道府県に設置)や就労移行支援事業所、医療機関(精神科・心療内科)に相談できます。症状が重い場合は医療機関への受診をおすすめします。
まとめ
アスペルガー(ASD)の嗅覚過敏は、脳の感覚フィルタリングの特性によって起きる、DSM-5でも認められた特性の一つです。においによる吐き気・頭痛・集中力低下・通勤疲弊など、日常生活や仕事に大きな影響を与える場合があります。
対処法としては、防臭マスクの活用・においの少ない環境選び・リモートワークの活用・職場での合理的配慮の申請などがあります。発達障害者支援センターや就労移行支援事業所への相談も、職場環境の調整に役立ちます。「においが辛い」という感覚は「わがまま」ではなく、正当な特性として周囲に説明・配慮を求めていくことが、長く働き続けるために重要です。
ASDの特性全般について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

困りごとが辛いと感じたら、一人で抱え込まず支援機関や医療機関に相談してみてくださいね。嗅覚の困りごとを前提に仕事環境を考える方法はいくつもありますよ。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

