「歩き方が変」と言われたことはありませんか?発達障害のある方に見られる歩き方の特徴は、感覚の処理や協調運動の特性と深く関係しています。

友達のソウくん、発達障害があるんだけど、歩き方が独特って言われること多いみたいで…何か関係あるのかなあ。
この記事では、発達障害の歩き方の特徴・その背景にある理由・DCD(発達性協調運動症)との関係・大人での対処法と受診の目安をわかりやすく解説します。
発達障害と歩き方の関係
ここでは、発達障害がある方に歩き方の特徴が表れやすい理由について解説します。診断名だけで歩き方が決まるわけではなく、感覚処理や協調運動の特性が関係しています。
歩き方の特徴は感覚や協調運動の特性から生まれる
発達障害のある方に独特の歩き方が見られることがあります。これは障害があるから「歩き方がおかしい」のではなく、感覚の処理の仕方や体の協調運動にアンバランスさがあることが背景にあります。
歩くという動作は、実はとても複雑です。バランスを保つための前庭感覚(平衡感覚)、体の位置を把握する固有感覚、視覚情報、そして左右の手足を連動させる協調運動すべてを同時に使います。発達障害のある方の中には、これらの処理が独特なパターンになっていることがあります。
また、歩き方だけで発達障害を診断することはできません。歩き方に特徴があるからといって発達障害であるとは言えず、逆に発達障害があっても歩き方に特徴が出ない方も多くいます。専門的な評価は医療機関で行うものです。
発達障害の診断名と歩き方の直接的な対応はない
「ASDだからつま先歩き」「ADHDだから早歩き」という単純な対応関係はなく、同じ診断名でも個人によって差があります。ただし、各障害の特性に関連して特定の歩き方の傾向が見られることがあります。発達障害情報のポータルサイト(発達性協調運動症(DCD)について)では、DCDが他の発達障害と高い頻度で併存することが報告されています。
発達障害の歩き方に見られる主な特徴
発達障害のある方に見られることのある歩き方のパターンを解説します。いずれも「当てはまれば発達障害」ということではなく、あくまで傾向として参考にしてください。

ソウくん、よく「歩き方がぎこちない」「音がうるさい」って言われるらしいんだよね。どんな特徴があるの?

いくつかのパターンがあるんですよ。つま先歩きやバタバタ歩き、ロボットのような歩き方などが代表的です。
つま先歩き(尖足歩行)
かかとを地面につけず、つま先立ちで歩くパターンです。ASDのある方に見られることがあり、感覚過敏によって床の刺激(硬さ・冷たさなど)を避けるための行動として現れることがあります。成長とともに自然に見られなくなる場合もありますが、大人になっても続く方もいます。
つま先歩きは2〜3歳ごろまでは発達の一過程として見られることがあり、それだけで発達障害を示すものではありません。長期間続く場合や、日常生活に支障が出る場合は専門機関への相談が選択肢になります。
バタバタ歩き・足を踏み鳴らす
足を持ち上げずにひきずったり、逆に強く踏み鳴らしたりする歩き方です。固有感覚(自分の体の位置や力加減を感じる感覚)の処理が独特な場合に、自分の歩く感覚を確かめるように強く踏む傾向が見られることがあります。
また、ADHDのある方では、注意が散漫になっているときに歩き方に集中できず、歩幅が不安定になったり、周囲にぶつかりやすくなったりすることがあります。本人が気づいていないことも多く、指摘されて初めて知るケースもよくあります。
ぎこちない歩き方・腕の振り方が独特
腕を全く振らない、または左右非対称に振る、関節を硬直させたようなカクカクとした歩き方になる場合があります。全身の動きを滑らかに連動させる「協調運動」に困難さがある場合に表れやすい特徴です。
体幹の筋力が弱い場合も、姿勢が崩れてバランスを取りにくくなり、歩き方に影響することがあります。発達障害のある方に体幹の弱さが見られることは少なくなく、これが歩行の安定性に影響している場合があります。
体幹の弱さと日常生活への影響については、以下の記事も参考になります。
すり足・ペンギン歩き・猫背歩き
足を大きく上げず地面をこするように歩くすり足、足先が外側に開いたペンギン歩き、前かがみになる猫背歩きなども、発達障害のある方に見られることのあるパターンです。
これらは姿勢コントロールの困難さや、股関節・足首の可動域のアンバランスさが背景にある場合があります。疲れやすさや腰痛につながることもあり、本人が長年「疲れやすい体質」と思っていたが実はこうした姿勢の問題だったというケースもあります。
DCD(発達性協調運動症)と歩き方の関係
歩き方の特徴を理解するうえで、DCD(発達性協調運動症)は重要な概念です。発達障害のある方に高い頻度で併存することが報告されています。
DCDとはどのような状態か
DCD(発達性協調運動症)は、運動に影響を与える神経疾患がないのに、協調された運動スキルの習得や使用が困難で日常生活に支障が出る状態です。発達障害者支援法に基づく発達障害の定義に含まれています(国立障害者リハビリテーションセンター「各障害の定義」)。
DCDのある方は、歩く・走る・階段を上り下りするといった基本的な移動動作のほか、ハサミや食器を使う、文字を書くなど細かい運動でも困難を感じることがあります。有病率は子どもの5〜8%程度と報告されており、珍しい状態ではありません。
DCDとASD・ADHDの併存割合
発達障害情報のポータルサイトによると、ASDのある方の89%、ADHDのある方の55.2%に協調運動の問題が報告されています(発達障害情報ポータルサイト「発達性協調運動症(DCD)について」)。
つまり、発達障害のある方の多くがDCDを伴っている可能性があります。歩き方のぎこちなさや転びやすさは、こうしたDCDの影響で現れることが少なくありません。ただし、これはDCDの特徴であり、発達障害の「症状」そのものではない点に注意が必要です。
大人になってもDCDは続くことがある
子どものころにDCDの傾向があった方の約50%は、青年期以降も影響が続くとされています。大人になると、自転車の運転・タイピング・料理・車の運転など、ライフステージに応じた新たな協調の課題が出てくることもあります。
「子どものころから運動が苦手だった」「歩くときによくつまずく」「ドアや机の角にぶつかりやすい」といった経験が長年続いている方は、DCDの影響が背景にある可能性も考えられます。
感覚統合とボディイメージの特性
歩き方の特徴は、感覚統合の処理とボディイメージ(自分の体の形や動きの感覚)に関係していることが多いです。

「感覚統合」って何?ソウくんの歩き方と関係あるの?

感覚統合とは複数の感覚情報を脳でまとめて処理することなんです。これが独特だと、体の動かし方に影響が出やすいんですよ。
前庭感覚と固有感覚の処理の独特さ
歩く動作に特に関わる感覚は「前庭感覚」と「固有感覚」の2つです。
- 前庭感覚(平衡感覚):頭や体の傾き・動きを感じる感覚。バランスを保つのに使う
- 固有感覚(深部感覚):筋肉や関節の動きを感じる感覚。力の入れ加減や体の位置を把握するのに使う
前庭感覚の処理が独特な場合は、バランスを保つのが難しくなり歩行が不安定になりやすくなります。固有感覚の処理が独特な場合は、足を踏み出す力加減や体の位置の把握が難しく、強く踏みすぎたり、反対に弱すぎてつまずいたりすることがあります。
感覚過敏が歩き方に影響するケース
感覚過敏がある方は、足裏への刺激(硬さ・温度・素材感など)が過剰に感じられ、無意識のうちに刺激を避ける歩き方になることがあります。これがつま先歩きや独特な体重のかけ方につながることがあります。
また、音の過敏さがある方が騒音の多い環境で歩くとき、刺激が多すぎて注意が分散し、歩行に集中しにくくなることもあります。ASDのある方の感覚過敏については、次の記事も参考になります。
大人の発達障害と歩き方の困りごと
子どもへの支援が中心に語られることの多い発達障害の歩き方ですが、大人になってからも困りごととして現れることがあります。ここでは大人特有の困りごとをまとめます。
職場や公共の場での困りごと
大人になってからも、歩き方が目立って指摘を受けることや、物にぶつかりやすくて困るといった困りごとが続くことがあります。特に職場での状況としては次のようなケースが見られます。
- 廊下を歩くとき壁や他の人にぶつかりやすい
- 足音が大きくて注意を受けることがある
- 階段の上り下りに時間がかかる、またはつまずきやすい
- 書類や荷物を持ちながら歩くとバランスを取るのが難しい
- 長時間歩くと疲れやすく、集中力が落ちる
こうした困りごとは本人の「不注意」や「不真面目さ」ではなく、協調運動や感覚処理の特性から生じていることを理解することが大切です。職場での合理的配慮の相談で伝えることも可能です。
疲れやすさ・転倒リスクへの影響
歩行に余分な力が入っていたり、バランスを保つために過剰なエネルギーを使っていたりすると、他の人と同じ距離を歩いても疲れやすいという状況が生まれます。「体力がない」と思っていたが、歩行の効率が悪いことが原因だったというケースもあります。
また、つまずきやすかったり足元に注意を向けにくかったりすることで、転倒リスクが高くなる場合もあります。雨の日の滑りやすい路面や、段差の多い場所では特に注意が必要です。
ASDの歩き方の特徴と困りごと
ASD(自閉スペクトラム症)のある方では、感覚過敏の影響でつま先歩きになる、他者との距離感をつかむのが難しくて接近しすぎる、人の流れに合わせて歩くのが難しいといった特徴が見られることがあります。
ショッピングモールや駅など人が多い場所では、視覚・聴覚の刺激が多すぎてパニック状態になりやすく、歩くこと自体がつらくなる場合もあります。ASDの苦手なことについて詳しくは以下の記事を参照してください。
発達障害の歩き方に関する対処法
歩き方の特徴は、本人がコントロールしにくい部分も多いですが、日常生活でできる工夫があります。特性や困りごとに応じて、できることから取り組んでみましょう。
靴と環境を整える
足裏への刺激が歩き方に影響している場合は、クッション性が高く足に合った靴を選ぶことが最初の工夫になります。足の形に合ったインソールを入れることで、歩行時の体重分散が改善する場合もあります。
また、混雑した場所や段差の多い環境を可能な範囲で避ける、通勤ルートを工夫するなど、環境側を整えることも有効です。「努力が足りない」ではなく、特性に合わせた環境を選ぶことは合理的な対処法です。
体幹トレーニングと姿勢の意識
体幹の筋力を高めることで、姿勢の安定性が改善し歩行が楽になることがあります。無理のない範囲で続けられる体幹トレーニングを取り入れてみましょう。ただし、強制的に「正しい歩き方」を意識させると、精神的な負担が増えることがあるため、自分のペースで楽しみながら取り組むことが大切です。
バランスボールやヨガなど、ゲーム的な要素がある活動から始めると続けやすい場合があります。専門の理学療法士や作業療法士に相談すると、個人の特性に合ったアプローチを提案してもらえます。
歩き方だけで発達障害を「断定」しないことが重要
繰り返しになりますが、歩き方の特徴だけで発達障害の有無を判断することはできません。「あの人の歩き方が変だから発達障害だ」という見方は、偏見につながり当事者を傷つける可能性があります。
歩き方の特徴は、発達障害のある方に見られることがあるというものであり、それ以上でも以下でもありません。発達障害の診断は専門の医療機関が行うものであり、外見や行動の観察から断定するものではありません。
受診の目安と相談先
歩き方に関する困りごとが日常生活や仕事に影響していると感じたら、専門機関への相談が選択肢になります。
どんなときに相談・受診を検討するか
以下のような状況が続く場合は、専門機関への相談を検討してみてください。
- 転倒・衝突が多く、日常生活で危険を感じることがある
- 歩き方に関して繰り返し指摘を受けて精神的に苦しい
- 足や腰に痛みが続いている
- 幼いころから運動が極端に苦手で、大人になっても改善していない
- 仕事や外出への意欲が歩き方の困りごとで下がっている
これらの困りごとが続く場合は、まずかかりつけ医や整形外科、また発達障害の支援に詳しい精神科・神経科・リハビリテーション科への相談が一つの入口になります。
相談できる専門機関
歩き方や協調運動の困りごとに対応できる相談先として、以下が挙げられます。
- 発達障害者支援センター:各都道府県にあり、発達障害全般の相談ができる(診断前でも相談可能なケースあり)
- 整形外科・リハビリテーション科:歩き方の問題・痛みへの対処、理学療法士によるサポート
- 精神科・神経科(発達障害専門):診断や支援方針の相談
- 作業療法士のいる施設:感覚統合療法・協調運動の改善サポート
発達障害の診断を受けている方は、就労移行支援や障害者雇用を通じて職場での合理的配慮を求めることができます。発達障害全体の働き方のサポートについては、次のカテゴリにまとめた記事も参考にしてみてください。
また、ASDの特性や歩き方に関連する「苦手なこと」については、以下の記事で詳しく解説しています。
発達障害の歩き方に関するよくある質問
発達障害の歩き方について、よく寄せられる質問に回答します。
- 発達障害があると歩き方が変になるのですか?
- 発達障害があるからといって必ず歩き方に特徴が出るわけではありません。感覚処理や協調運動の特性によって歩き方に独特のパターンが見られることがありますが、個人差が大きいです。
- つま先歩きは発達障害のサインですか?
- つま先歩きは2〜3歳ごろまでは発達の一過程として見られますが、長期間続く場合は感覚過敏などの影響が考えられます。ただし、つま先歩きだけで発達障害を判断することはできません。
- 発達障害の歩き方は大人になれば改善しますか?
- 個人差があります。成長とともに自然に変化する場合もありますが、DCDなどが背景にある場合は大人になっても続くことがあります。理学療法士や作業療法士への相談で改善を目指すことができます。
- 「歩き方が変」と言われるのですが、受診すべきですか?
- 歩き方で転倒・衝突が多い、痛みがある、日常生活や仕事に支障が出ているなどの場合は受診・相談を検討してみてください。発達障害者支援センターは診断前でも相談可能なケースがあります。
- 発達障害の歩き方を指摘することは適切ですか?
- 歩き方の特徴は本人がコントロールしにくいことが多く、心ない指摘は当事者を傷つける可能性があります。本人や家族が困っている場合は、医療的なサポートや環境の工夫を一緒に考えることが大切です。
まとめ
発達障害のある方に見られる歩き方の特徴は、感覚処理や協調運動(DCD)の特性が背景にあることが多く、本人の意思や努力不足ではありません。つま先歩き・バタバタ歩き・ぎこちない歩き方などは、感覚統合の独特さや体幹の弱さから生じることがあります。ただし、歩き方だけで発達障害を断定することはできず、偏見のない視点で本人の困りごとに向き合うことが重要です。困りごとが続く場合は、発達障害者支援センターや専門の医療機関へ相談することを検討してみてください。

歩き方の困りごとは、環境の工夫や専門家のサポートで楽になることもあります。一人で抱えずに、まず相談してみてくださいね。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

