「姿勢が保てない」「すぐ椅子にもたれてしまう」…発達障害のある人に体幹の弱さが見られることは、医療・福祉の現場でも広く知られています。

友達のコトリちゃん、発達障害で姿勢が崩れやすいって言ってたなあ。なんで体幹が弱くなるのかな?
この記事では、発達障害で体幹が弱くなる3つの理由(低緊張・感覚統合・DCD)、年代別の現れ方、そして日常でできる対処法まで解説します。
発達障害と体幹の弱さ|まず知っておきたい基本
ここでは、発達障害と体幹の弱さの関係の基本を整理します。体幹が弱い状態とはどういうことか、また発達障害全般との関連を確認しましょう。
体幹が弱いとはどういう状態か
「体幹が弱い」というのは、背骨・骨盤・腹部を支える筋群が適切に働かず、姿勢を一定時間保つことが難しい状態を指します。筋力そのものが絶対的に不足しているのではなく、「必要なタイミングに必要な力を出す制御」が難しいという点が重要です。
体幹が弱いと、椅子に長時間座っているとすぐ崩れる、机にもたれてしまう、立ったときにふらつく、といった状態が起きやすくなります。発達障害のある人では、このような姿勢保持の困難が子ども期から大人になっても続くことがあります。
発達障害全般に体幹の弱さが見られやすい理由
ADHD・ASD・学習障害などの発達障害は、脳の神経発達の特徴を持つ状態です。神経発達の特徴は運動制御にも影響するため、体幹を安定させる神経回路の働きにも差が生じやすいとされています。発達性協調運動症(DCD)の有病率は5〜8%とされており(APA、2022)、ASDでは89%、ADHDでは55.2%に協調運動の問題が見られるという報告もあります。
体幹の弱さそのものは一つの障害ではありませんが、発達障害の特性と深く関わる神経・感覚の仕組みが影響していることが分かっています。以下では、その具体的な機序を3つに整理して解説します。
発達障害で体幹が弱いなぜ?3つの機序
発達障害のある人で体幹が弱い背景には、主に3つのメカニズムが指摘されています。一人ひとりで組み合わさり方は異なりますが、これらを知ることで対処の方向性が見えてきます。

コトリちゃんが「体幹が弱いって筋肉がないからじゃないの?」って言ってたけど、それだけじゃないんだよね?

そうなんです。筋力より「脳と感覚がどう体幹に指令を出すか」という仕組みの方が大きく関わっていますよ。
機序1:筋肉の低緊張(ていきんちょう)
低緊張とは、筋肉が常時保つべき適度な張りが弱い状態を指します。「脳や脊髄から筋肉へ信号がうまく伝わりにくい」神経系の特徴によって生じることが多いとされています。筋力の絶対値が低いのではなく、「いつでも使える準備状態」が維持しにくいイメージです。
低緊張があると、体を支える体幹筋が「そっと使い続ける」ことが難しくなります。椅子に座るだけでも体が徐々に崩れてしまうのは、体幹筋の持続的な低レベル収縮が維持されにくいからです。発達障害のある人の一部ではこの低緊張が見られ、子ども期から姿勢の崩れとして現れることがあります。
機序2:固有受容覚と前庭覚の働きの差
固有受容覚(こゆうじゅようかく)とは、自分の体の位置・動き・力加減を感じ取る感覚です。「今どの角度で肘が曲がっているか」「どれくらい力を入れているか」を脳に伝える役割を担います。また前庭覚(ぜんていかく)は、重力の方向や頭の傾きを感じ取る感覚で、バランス保持に直結しています。
発達障害のある人の一部では、これらの感覚情報が脳に届きにくかったり、逆に過敏に届きすぎたりすることがあります。固有受容覚・前庭覚の情報が少ない場合、体幹をどの角度で保てばよいかの「フィードバック」が弱くなり、姿勢の崩れとして現れやすくなります。
機序3:感覚統合の未熟さとDCD
感覚統合とは、視覚・触覚・固有受容覚・前庭覚などの複数の感覚を脳がまとめて処理し、適切な行動につなげる機能です。感覚統合が十分に機能していないと、「今どう体を保てばよいか」という情報が脳で整理されにくく、姿勢保持が難しくなります。
発達性協調運動症(DCD)は、脳性麻痺などの神経疾患がないにもかかわらず、協調された運動スキルの獲得や使用が著しく困難な状態です。ADHDやASDに高頻度で併存するとされており、体幹の安定にも関わります。DCDは子ども期に診断されることが多いですが、50〜70%の割合で青年期以降も課題が続くとの報告があります(発達障害情報のポータルサイト「発達性協調運動症」)。発達障害に関連する脳・神経の特徴については、こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター)でも詳しく解説されています。
発達障害で体幹が弱いと日常・仕事でどう現れるか
以下では、子ども期と大人期それぞれに体幹の弱さがどのような形で現れやすいかを整理します。
子ども期に見られやすいサイン
子ども期では、授業中に椅子からずり落ちそうになる、机にもたれて頬杖をつく、体育の時間に集団の動きについていけないといった形で現れやすいとされています。また、姿勢を保つことに意識が取られ、授業に集中しにくくなるという悪循環が生じる場合もあります。
書字の苦手さも体幹と無関係ではありません。体幹が不安定だと腕・手先を安定させることにも影響が出やすく、「字を書くのが疲れる・汚くなる」という困りごとにつながることがあります。
大人期の困りごと(仕事・日常生活)
大人になってからも体幹の弱さが続く場合、デスクワーク中の腰痛・肩こり・疲れやすさとして現れることがあります。長時間座って業務を行う現代の職場では、体幹が弱いと体を支えることに余分なエネルギーを使い、集中力の維持が難しくなる場合もあります。
また「立ち仕事で早く疲れる」「バランスを崩してよくぶつかる」「電車の中で立ち続けるのが辛い」といった困りごとも報告されています。これらは意志の問題ではなく、神経・感覚系の特徴に起因する場合があります。
- 長時間デスクワークで腰痛・肩こりが起きやすい
- 姿勢を維持することに疲れ、集中力が続きにくくなる
- 立ち仕事で早く疲れる・ふらつく
- 電車や公共交通機関で立ち続けるのがつらい
- 物にぶつかることが多い
発達障害のある人の疲れやすさについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
感覚過敏の特性が体幹や姿勢に影響する場合もあります。ADHDの感覚過敏についてはこちらも参考にしてください。
発達障害の体幹の弱さへの対処法
体幹の弱さには「筋力を鍛えるだけ」の対処は必ずしも有効ではなく、感覚統合の面からのアプローチや環境調整が重要とされています。以下に代表的な対処の方向性を整理します。

コトリちゃんにできることを伝えてあげたいな。どんな方法があるんだろう?

環境を整えることと、専門家のサポートを組み合わせるのが大切ですよ。一人でなんとかしようとしなくていいんです。
作業療法・感覚統合療法による専門的アプローチ
感覚統合療法は、作業療法士(OT)が専門とする療育アプローチで、前庭覚・固有受容覚・触覚などの感覚を脳が適切に処理できるよう、遊びや活動を通じて働きかけます。「楽しい」と感じながら自然と感覚刺激を受け取るのが特徴で、強制的なトレーニングとは異なります。
具体的にはトランポリン・ハンモック(前庭覚刺激)、重い荷物を運ぶ活動(固有受容覚刺激)、粘土・砂遊び(触覚刺激)などが活用されます。子どもの場合は発達支援機関・放課後等デイサービス、大人の場合は就労移行支援事業所や医療機関に在籍する作業療法士に相談できる場合があります。
環境調整で体幹の負担を減らす方法
体幹を「使い続ける」負担を減らす環境調整も有効な手段の一つです。正しい高さの椅子と机を使うことは、体幹への負担を大幅に軽減できるとされています。座面の滑り止めマットや、腰当てクッションも姿勢保持の補助になります。
- 椅子の高さを足がしっかり床につく高さに調整する
- 座面に滑り止めマットを敷く
- 腰当てクッションや背もたれを活用する
- 定期的に立ち上がってストレッチを挟む
- 高さ調整可能なスタンディングデスクの利用を検討する
日常生活でできる動きの取り入れ方
専門的な療法と並行して、日常的な動きを意識することも体幹への働きかけになります。無理なく続けられる範囲でよいとされており、「運動が苦手」でも負担の少ない形から始めることが大切です。
- 四つん這いになってゆっくり重心を移動させる
- バランスボールに座って骨盤を動かす
- 散歩や軽いウォーキングを習慣にする
- ヨガや水中ウォーキングなど体幹を使う動きを取り入れる
職場での合理的配慮として活用できること
発達障害のある人が職場で体幹の弱さによる困りごとを感じている場合、合理的配慮として職場環境の調整をお願いできる場合があります。障害者雇用促進法では、事業主に対して合理的配慮を提供する義務が定められています。
「座面の高さが調整できる椅子への変更」「定期的な休憩の確保」「立ち仕事と座り仕事のローテーション」などは、業務への影響と配慮の必要性を伝えた上で検討してもらえる可能性があります。就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターに相談することで、職場への配慮の伝え方についてサポートを受けられる場合があります。
発達障害のある人の就職支援制度については、こちらの記事も参考にしてみてください。
職場でのコミュニケーションや配慮の伝え方に不安がある方は、こちらの記事もご覧ください。
受診・専門家への相談を検討するタイミング
以下に該当する場合は、医療機関や専門家への相談を検討することが望ましいとされています。なお受診の判断は本人・保護者・支援者が状況を見ながら行うものであり、以下はあくまで目安です。
- 姿勢の崩れが著しく、学校・仕事に支障が出ている
- 腰痛・肩こりが慢性化し、日常生活に影響している
- 転倒・衝突のリスクが高く、生活の安全性が心配
- 体幹以外にも不器用さ・協調運動の困難が複数ある
- 自己流のトレーニングを続けているが改善が感じられない
相談先としては、小児科・整形外科・リハビリ専門医のほか、作業療法士が在籍する医療機関や地域の発達障害者支援センターが挙げられます。体幹の弱さが日常生活に大きな支障をもたらしている場合は、できるだけ早めに専門家に相談することをおすすめします。
発達障害全般に関連する支援については、発達障害の就職・支援制度についてまとめた記事も参考にしてみてください。
発達障害と体幹の弱さに関するよくある質問
ここでは、発達障害と体幹の弱さについてよく寄せられる疑問にお答えします。
- 発達障害があると必ず体幹が弱くなりますか?
- 必ずしもそうではありません。体幹の弱さは発達障害に関連する特性の一つとして見られやすいですが、個人差が大きく、体幹に問題がない発達障害のある人も多くいます。
- 体幹トレーニングだけで改善できますか?
- 筋力を上げるアプローチだけでは本質的な改善につながりにくい場合があります。感覚統合の面からのアプローチや環境調整を組み合わせることが望ましく、専門家に相談することをおすすめします。
- DCDは発達障害とは別の診断ですか?
- DCDは独立した神経発達症の診断名(発達性協調運動症)ですが、ASDやADHDに高頻度で併存します。発達障害の診断を受けている場合もDCDが重なっていることがあるため、気になる場合は医療機関に相談することが望ましいです。
- 大人でも作業療法を受けることはできますか?
- はい、大人でも作業療法を受けることが可能です。就労移行支援事業所や医療機関に在籍する作業療法士に相談する方法のほか、地域の発達障害者支援センターに問い合わせることで相談先を紹介してもらえる場合があります。
- 発達障害のある子どもの体幹が弱い場合、学校でできる支援はありますか?
- 椅子の高さ調整・滑り止めマットの使用・授業中の姿勢への過度な指摘を控えるといった環境調整が考えられます。必要に応じて学校と相談し、合理的配慮として提案することが一つの方法です。
まとめ
発達障害で体幹が弱くなる背景には、筋肉の低緊張・固有受容覚や前庭覚の処理の差・感覚統合の未熟さやDCDといった複数の要因が関わっています。筋力だけの問題ではなく、神経・感覚系の特徴に起因する場合が多いため、「努力が足りない」「意識が低い」という見方は適切ではありません。対処には環境調整・感覚統合療法・専門家によるサポートを組み合わせることが有効とされています。

体幹の弱さが気になるときは、一人で悩まず専門家に相談してみてくださいね。診断や治療が必要な場合は、必ず医療機関にご相談くださいね。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

