「あの人、また嘘をついた」と思ったとき、その言動の背景に発達障害の特性があるかもしれません。発達障害のある人がつく「嘘のように見える行動」は、悪意や意図的な欺きとは異なることがほとんどです。

友達のユイちゃん、発達障害があるんだけど、「嘘つき」って言われて傷ついたって聞いてさ。なんで嘘に見えちゃうのかな?
この記事では、発達障害のある人が「嘘をついている」と誤解されやすい理由、ADHD・ASD別の背景、そして本人・周囲それぞれにできる対処法を解説します。本人を責める視点ではなく、特性への理解を深めることを目的としています。
「発達障害=嘘つき」ではない|誤解が生まれる背景
まず大前提として、発達障害があること自体が嘘をつきやすい性格を作るわけではありません。ここでは、なぜ「嘘」に見える言動が生じるのかの背景を整理します。
発達障害の特性が「嘘」に見える仕組み
発達障害のある人の言動が「嘘」に見えるケースの多くは、記憶の曖昧さ・衝動的な発言・状況の認識のズレといった神経発達上の特性に起因しています。意図して人をだましているのではなく、脳の働き方の違いによる言動であることがほとんどです。
厚生労働省は発達障害の特性として、「状況を客観的に把握することの難しさ」「衝動的に行動・発言してしまう」などを挙げています。これらの特性が、結果として相手側に「嘘をついている」と受け取られることがあります。(参考:厚生労働省「発達障害の特性(代表例)」)
「本人は嘘のつもりがない」ケースが多い
発達障害のある人が「嘘」とみなされる行動を取るとき、本人には嘘をついているという意識がないことが多くあります。約束を忘れていたのに「やった」と言ってしまうのは、記憶の抜け落ちや状況の認識のズレが原因であることがほとんどです。
また、「言ったこと」と「実際にしたこと」の記憶が曖昧になりやすい特性から、後から「言っていない」と言い張る場面も起こりやすくなります。これは意図的な言い逃れではなく、ワーキングメモリの弱さや時間感覚の特性が背景にある場合があります。
発達障害で「嘘に見える」主な理由【ADHD・ASD別】
以下では、ADHDとASD(自閉スペクトラム症)のそれぞれの特性から、「嘘」に見えやすい言動の背景を具体的に解説します。

ユイちゃんはASDもあるんだよね。「嘘」って言われる理由、ADHDとASDで違うのかな?

そうなんですよ。背景にある特性が違うので、「嘘に見える」理由もADHDとASDでそれぞれ異なるんです。
ADHDが「嘘」に見える理由
ADHDのある人が嘘に見える言動をするのは、主に衝動性・ワーキングメモリの弱さ・防衛的な言動の3つが背景にあります。
衝動性が高いと、その場の状況を乗り越えようとして、深く考えずに「やった」「知らない」「やっていない」と言ってしまうことがあります。後になって自分でも「なぜあんなことを言ったのか」と後悔するケースも少なくありません。
ワーキングメモリが弱いため、約束や話し合いの内容を忘れやすい傾向があります。「言っていない」「そんな約束はしていない」と言い張るのは、本当に記憶に残っていない場合があります。
過去に失敗を繰り返し叱られてきた経験から、自己肯定感が低くなりやすいです。そのため、ミスをしたとき「怒られたくない」という防衛本能から、とっさに否定や言い訳をしてしまうことがあります。
ADHDのある人の記憶の働き方については、以下の記事も参考になります。
ASDが「嘘」に見える理由
ASD(自閉スペクトラム症)のある人が「嘘をついている」と誤解されやすい背景には、認識のズレ・文脈理解の難しさ・作話傾向が挙げられます。
ASDのある人は、曖昧な表現や暗黙のルールを文字通りに受け取りやすい傾向があります。「大丈夫」と聞かれて「大丈夫」と答えたのに、実際には困っていた、というケースは、嘘ではなく、その瞬間の認識を正直に言っただけのことがほとんどです。
記憶の空白部分を無意識に「それらしい話」で補完してしまう「作話」と呼ばれる傾向が見られることがあります。これは意図的な嘘ではなく、脳が記憶の欠損を埋めようとする神経的なメカニズムが背景にあります。
社会的な場面でうまく立ち回れないことへの不安から、「できる」「知っている」と言ってしまうことがあります。周囲から排除されたくない・仲間に入りたいという気持ちが、結果として「見栄」のように見える言動につながる場合があります。
ASD(アスペルガー)と嘘の関係については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
発達障害の「嘘」と意図的な嘘はどう違う?
ここでは、発達障害の特性に由来する「嘘に見える言動」と、一般的な意図的な嘘の違いを整理します。
意図的な嘘との違いを見分けるポイント
一般的に、意図的な嘘は「相手を欺こうとする目的意識」が前提にあります。一方で、発達障害の特性に由来する「嘘に見える言動」には、欺く意図がない・自分でも気づいていない・パターンが特性と一致しているという特徴があります。
| 項目 | 発達障害の特性由来 | 意図的な嘘 |
|---|---|---|
| 欺く意図 | ほぼない | ある |
| 本人の自覚 | 低い(気づいていないことも多い) | 高い |
| 言動のパターン | 特性(衝動・記憶・認識ズレ)と一致 | 状況によって変化する |
| 指摘したとき | 混乱・パニック・自己否定になりやすい | 言い訳を考える傾向 |
| 後悔・罪悪感 | あることが多い | 必ずしもない |
もちろん、発達障害のある人が意図的な嘘をつくことがないとは言えません。ただし、「嘘に見える言動 = 悪意がある」と断定せず、特性に基づく背景を確認することが大切です。
「嘘をつかない」という一面を持つASD
ASDのある人は、「こだわり」や「正義感の強さ」から、逆に嘘をつくことが極端に苦手なケースも多く見られます。たとえば、社交辞令や「建前」がうまく使えず、正直に話しすぎて相手を傷つけてしまう、という困りごとを抱える方も少なくありません。
「嘘をつく発達障害」と「嘘がつけない発達障害」は、同じASDの特性から生まれる対照的な現象であることも理解しておくと、より立体的に特性を把握できます。
周囲ができる対応|責める前に特性を理解する
発達障害のある人に対して周囲ができる対応を、家族・職場のそれぞれの視点から整理します。

ユイちゃんに「なんでそんなこと言うの」って責めても、ユイちゃんも辛いよね。どう接したらいいのかな?

「なぜ嘘をついたか」ではなく「何が起きたか」を一緒に整理することから始めると、関係が壊れにくくなりますよ。
家族・パートナーとしての接し方
家族やパートナーとして発達障害のある人と接するとき、「なぜ嘘をついたのか」という問い詰め方は逆効果になる傾向があります。発達障害のある人は、責められることへの感受性が高く、問い詰めることで防衛反応が強まり、より言動が複雑になることがあります。
代わりに、「何があったか一緒に確認しよう」という姿勢で対話することが助けになります。事実を整理しながら、「どんな状況でそう言ったのか」を本人が振り返りやすい雰囲気をつくることが重要です。
職場での対応と環境調整
職場では、発達障害の特性に由来する「言った・言わない」問題が起きやすくなります。これを防ぐために、口頭での指示をメモ・メール・チャットツールで残す習慣を設けることが有効です。
約束や指示内容を文字で残すことで、本人の記憶の曖昧さに起因するトラブルを減らせます。また、「確認を取り合う」文化を作ることで、本人も「言えた・できた」という成功体験を積みやすくなります。
本人にできる工夫|「嘘に見えない」コミュニケーションを育てる
発達障害のある本人が、嘘に見える言動を減らすための実践的な工夫を紹介します。自分のパターンを知ることが、最初の一歩になります。
「わからない」「忘れた」を言語化する練習
「やった」「知っている」と衝動的に言ってしまう前に、「少し確認してから答えます」という一言を挟む練習が助けになります。「わからない」と正直に言うことは恥ずかしいことではなく、信頼関係をつくる行動です。
すぐにはうまくできなくても、繰り返すうちに「確認してから答える」パターンが身についていきます。衝動性のコントロールについては、以下の記事も参考にしてみてください。
記録やメモで「言ったこと」を客観化する
約束や重要な話し合いの内容をメモに残す習慣をつけることで、「言った・言わない」の問題を自分でも防げます。スマートフォンのメモアプリやボイスメモを活用すると、記録のハードルが下がります。
ワーキングメモリの弱さをツールで補うアプローチは、ADHDの記憶の困りごとに対して特に有効です。記憶の特性について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
「嘘に見える」と感じたときの自己理解の深め方
「なぜあのとき嘘をついてしまったのか」と自分を責めてしまう発達障害のある人も多くいます。そのとき、「嘘をついた」ではなく、「どんな状況のときに、どんな言動が出やすいのかパターンを知る」視点に切り替えると、自己理解が深まります。
支援機関(就労移行支援・発達障害者支援センター)のスタッフと一緒にパターンを整理するのも有効な方法です。就労支援の活用については、以下の記事で詳しく解説しています。
「嘘に見える言動」が繰り返されるときの相談先
本人・周囲どちらも、「嘘に見える言動」が繰り返されて困っている場合は、専門機関に相談することも選択肢の一つです。
発達障害者支援センター(無料相談あり)
各都道府県に設置されている発達障害者支援センターでは、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。専門の支援員と一緒に、特性の理解やコミュニケーションの改善策を一緒に考えることができます。
発達障害者支援センターの詳細は、国立障害者リハビリテーションセンター(発達障害情報・支援センター)のページで確認できます。(参考:発達障害情報・支援センター「各障害の定義」)
就労移行支援・障害者雇用での環境整備
職場でのトラブルが繰り返されている場合、就労移行支援事業所を通じてソーシャルスキルトレーニング(SST)やコミュニケーションのトレーニングを受けることが役立つ場合があります。
また、障害者雇用枠での就職では、職場に発達障害の特性を伝えた上での環境調整(合理的配慮)が受けやすくなります。特性を隠さず働ける環境づくりが、長期的な就労定着につながります。
発達障害の就職・転職について詳しくは、以下の記事もご覧ください。
発達障害の就職支援や働き方の情報は、発達障害の就職・転職に関する記事一覧もまとめています。
発達障害と嘘に関するよくある質問
発達障害と嘘の関係についてよく寄せられる疑問に回答します。
- 発達障害のある人は全員嘘をつくのですか?
- そのようなことはありません。発達障害は多様であり、嘘に見える言動が出やすい人もいれば、むしろ正直すぎるほど正直で嘘がつけない人もいます。「発達障害=嘘つき」という一括りの見方は誤解を生みやすいため、個人の特性を理解することが大切です。
- 子どもの発達障害の嘘はどう対応すればいいですか?
- 責めたり問い詰めたりするより、「何があったか一緒に確認する」姿勢が効果的です。嘘の背景に不安や失敗への恐れがある場合、安心できる関係づくりが先決です。専門機関(発達障害者支援センター・医療機関)への相談も検討してみてください。
- 発達障害の嘘は治りますか?
- 「治る・治らない」という考え方よりも、特性への理解と環境調整によって嘘に見える言動が起きにくい状況をつくることが現実的です。本人がパターンを自覚し、周囲が適切に対応することで、トラブルを減らしていくことができます。医療的な判断は専門家にご相談ください。
- ADHDと嘘の関係を詳しく知りたい場合は?
- ADHDの特性と嘘に見える言動に絞った解説は、「ADHDと嘘|なぜそう見える行動が起きるのか解説」の記事が参考になります。本記事からも関連記事としてリンクしています。
- 発達障害のある人が「嘘をつかない」工夫はありますか?
- 「少し考えてから答える」という間を習慣化することや、約束をメモに残す、「わからない」をきちんと言語化する練習が助けになります。支援機関でのソーシャルスキルトレーニング(SST)も選択肢の一つです。
まとめ
発達障害のある人が「嘘をつく」と見られる言動の多くは、悪意ではなく記憶の曖昧さ・衝動性・認識のズレ・防衛的な言動という特性に由来しています。ADHDではワーキングメモリの弱さや衝動性、ASDでは状況認識のズレや作話傾向が背景になりやすいです。周囲は責めるより特性を理解した関わりが大切であり、本人もパターンを知ってメモや確認の工夫を取り入れることで、コミュニケーションのトラブルを減らしていけます。困りごとが深刻なときは、発達障害者支援センターや就労移行支援などの専門機関への相談も検討してみてください。

特性の理解が、誤解を減らす第一歩ですよ。困りごとが続くときは、一人で抱え込まず専門家に相談してみてくださいね。
本記事はワナワーク編集部(キャリア相談歴8年・国家資格キャリアコンサルタント保有)が執筆・監修しています。
ワナワーク編集部
キャリア相談歴8年・国家資格キャリアコンサルタント保有。発達障害(ADHD・ASD・LD・知的障害)や精神疾患のある方の就職・転職支援に特化した情報を、一次情報を基に執筆・監修しています。「当事者が安心して働ける環境」の実現を目指し、偏見のない正確な情報発信を心がけています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

