「人との会話がうまくいかない」「職場のコミュニケーションに困っている」と感じている発達障害のある人に向けて、SSTという対人スキルトレーニングがあります。医療機関や就労移行支援事業所で受けられ、大人でも効果が出るとされる支援方法です。

友達のユイちゃん、発達障害で職場のコミュニケーションが苦手らしくて。SSTって聞いたことあるんだけど、どんなトレーニングなんだろ?
この記事では、SSTとは何か・発達障害のある人への効果・具体的な進め方・受けられる場所・自分でできる練習方法まで、公的機関の情報をもとにわかりやすく解説します。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは
ここでは、SSTの定義・目的・対象者について解説します。
SSTの定義と目的
SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、社会生活に必要な対人スキルを、訓練によって段階的に身につけていく支援方法です。厚生労働省の「こころの耳」では、SSTを「社会適応能力を改善することを目的に行う技法訓練」と定義しています(こころの耳:ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)用語解説)。
SSTはもともと精神障害のある人の社会復帰支援として始まりましたが、現在では発達障害のある人への就労支援としても幅広く活用されています。「あいさつの仕方」「断り方」「上司への報告の仕方」といった、対人関係で必要な具体的スキルを繰り返し練習することで、自然なかかわり方を身につけることを目指します。
発達障害のある人は、発達障害のない人が自然に学ぶ対人スキルを習得しにくいことがあります。SSTは、そうしたスキルを意識的・計画的に身につけられるよう設計された、根拠のあるアプローチです。
SSTはどんな人が対象?
SSTは子どもから大人まで幅広い年代が対象となります。発達障害(ADHD・ASD・LDなど)のある人に加え、精神疾患(うつ病・統合失調症・不安障害など)のある人も対象です。
特に就労場面での活用が増えており、以下のような困りごとがある人が受けることが多いです。
- 職場でのあいさつや雑談が苦手
- 上司・同僚への報告・連絡・相談がうまくできない
- 依頼を断ったり、自分の意見を伝えたりするのが難しい
- 感情のコントロールに困っている
- 人の表情や言葉のニュアンスを読み取りにくい
診断の有無にかかわらず相談できる機関もあります。「スキルを身につけたい」という気持ちがあれば、SSTの対象になりえます。
発達障害のある人がSSTを受けるメリット
以下では、SSTが発達障害のある人にもたらす主なメリットを解説します。

ユイちゃん、コミュニケーションが苦手で職場になじめないって悩んでたから、SSTでどんなことが変わるのか気になるなあ。

SSTは「練習の機会」を作ってくれるんです。苦手なやりとりを安全な環境で繰り返し練習できるのが一番のメリットですよ。
対人スキルを安全な場所で練習できる
SSTの最大のメリットは、失敗しても大丈夫な安全な環境でコミュニケーションを練習できる点です。実際の職場では緊張や不安からうまくいかない場面でも、SSTなら何度でも繰り返し試すことができます。
ロールプレイ(役割演技)を通じて「上司に遅刻を報告する場面」「会議で意見を述べる場面」などを事前に練習し、実際の場面でも落ち着いて対応できる自信を育てます。スキルは繰り返すことで定着するため、継続的な参加が効果的です。
自分の苦手を客観的に把握できる
SSTでは、まず自分の行動パターンを分析する「行動分析」から始まります。「どんな場面で何につまずくのか」を専門スタッフと一緒に整理することで、自分の苦手を客観的に理解できるようになります。
発達障害のある人の中には、「なぜ職場でうまくいかないのかわからない」と感じている人も少なくありません。SSTでは苦手の「見える化」がされるため、対処法も見つけやすくなります。自己理解が深まることで、職場での配慮のお願い(合理的配慮の申請)にも役立ちます。
就労定着・職場復帰のサポートになる
SSTは就職活動前の準備だけでなく、就職後の定着支援や職場復帰(リワーク)にも活用されています。「履歴書の書き方」「面接でのコミュニケーション」「職場での立ち振る舞い」まで、段階に応じたテーマで練習が進められます。
就労移行支援事業所でも、就職準備のプログラムとしてSSTを取り入れているところが多くあります。就職後も継続してスキルを練習できる環境が整いやすいのも、支援機関を利用するメリットです。
SSTの進め方|6つのステップを解説
ここでは、SSTの標準的な進め方について解説します。一般的に以下の6ステップで構成されることが多いです。
ステップ1:行動分析(自分の特性を把握する)
「できること・できないこと」を整理し、何をトレーニングするか決めるのが最初のステップです。支援スタッフと一緒に、どんな場面で困っているのかを洗い出します。
「初対面の人に話しかけるのが苦手」「断るとき感情的になってしまう」「相手の意図がわからず誤解を招く」など、具体的な場面を整理することで、その後のプログラムが個別に組み立てられます。発達障害のある人それぞれの特性に合わせたオーダーメイドのアプローチが取られます。
ステップ2:教示(スキルの説明を受ける)
次に、訓練するスキルについてスタッフからわかりやすく説明を受けます。「なぜそのスキルが必要なのか」「具体的にどう行動すればよいか」を言語化して理解することで、練習への見通しが立ちます。
たとえば「上司への報告の仕方」であれば、「まず結論を先に伝える」「5W1Hで状況を整理する」といった具体的なポイントが提示されます。発達障害のある人は抽象的な指示が伝わりにくい場合があるため、SSTでは視覚的な資料やワークシートを使って説明されることも多いです。
ステップ3:モデリング(良い例・悪い例を見る)
スタッフや仲間がお手本を実演するのがモデリングです。「良い例」と「悪い例」の両方を見ることで、どの点を改善すればよいかが視覚的に理解できます。
人は目で見て学ぶことが得意なため、実演を通じてスキルのイメージをつかみやすくなります。グループSSTでは参加者同士がモデルを担当することもあり、仲間の行動を観察するだけでも学びにつながります。動画を使ったモデリングを取り入れているプログラムもあります。
ステップ4:リハーサル(ロールプレイで練習する)
SSTの核心といえるのがリハーサルです。実際の場面を想定したロールプレイ(役割演技)を繰り返すことで、スキルを体で覚えていきます。
「上司役」「同僚役」「自分役」などを参加者で分担し、実際に言葉を口に出して練習します。緊張しながらも安全な環境で繰り返せるため、本番への不安が和らいでいくのが特徴です。うまくいかなくても「もう一度やってみよう」と繰り返せる場であることが、SSTの大切な点です。
ステップ5:フィードバック(振り返りをする)
ロールプレイの後は、スタッフや参加者からフィードバックを受けます。「よかった点」を先に伝え、次に「改善できる点」を具体的に示すのがSSTの基本スタイルです。
自分では気づかなかった行動のクセや言葉の使い方を、第三者の目から指摘してもらえることで客観的な振り返りができます。フィードバックはあくまで「改善のヒント」であり、批判ではありません。安心してフィードバックを受け取れる雰囲気づくりが支援者側にも求められます。
ステップ6:般化(実生活で使えるようにする)
最終ステップは「般化(はんか)」です。訓練で身につけたスキルを、実際の職場や日常生活の場面でも使えるようにするステップです。
「今日練習した報告の仕方を、明日の朝会で使ってみる」といった宿題(ホームワーク)が出されることもあります。実際に使ってみた結果を次回のSSTで共有することで、さらなる改善につなげていきます。般化が進むほど、SSTで学んだスキルが自分のものとして定着していきます。
発達障害のSSTでよく扱うテーマ
以下では、発達障害のある人向けSSTでよく取り上げられる練習テーマを紹介します。
コミュニケーション・会話スキル
対人スキルの基本となるコミュニケーション全般が中心的なテーマです。「あいさつ」「話の聞き方」「会話の始め方・終わり方」「質問の仕方」「相手の感情を読み取る練習」などが含まれます。
ASDのある人は言葉の裏にある意図やニュアンスを理解しにくいことがあります。「暗黙の了解」を明文化し、具体的なパターンとして練習することで、理解しやすくなります。ADHDのある人は衝動的に話しすぎてしまうクセへの対処なども扱われます。
職場での報連相・依頼・断り方
就労場面に特化したスキル練習も多く行われます。具体的なテーマ例を以下にまとめます。
| テーマ | 具体的な場面例 |
|---|---|
| 報告・連絡・相談 | 遅刻しそうなときの連絡方法、仕事が終わったときの報告の仕方 |
| 依頼の仕方 | 仕事を手伝ってほしいとき、わからないことを質問するとき |
| 断り方 | 仕事が多すぎるとき、できない仕事を頼まれたとき |
| 意見の伝え方 | 会議での発言、上司への提案、困っていることの申し出 |
| 謝罪の仕方 | ミスをしたときの謝り方、誤解を招いたときの対応 |
これらは「言葉でどう伝えるか」だけでなく、表情・声のトーン・タイミングなど非言語の要素も含めて練習します。
感情のコントロール・ストレス対処
発達障害のある人はストレスをため込みやすかったり、感情が表れやすかったりすることがあります。SSTでは「怒りや不安を適切に表現する方法」「気持ちを落ち着かせるセルフケア」も扱われます。
たとえば「気持ちのスケール(1〜10で感情を数値化する)」「呼吸法」「その場を離れる判断のタイミング」などを練習します。感情コントロールのスキルは、職場トラブルの防止にもつながる重要なテーマです。
SSTを受けられる場所
以下では、SSTを受けられる代表的な機関を紹介します。それぞれ対象や内容が異なるため、自分の状況に合った場所を選ぶことが大切です。

ユイちゃんはどこでSSTを受けたらいいんだろ?病院に行かないといけないのかな?

病院だけじゃなくて、就労移行支援事業所でも受けられますよ。まずは状況に合った機関に相談してみてくださいね。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、就職を目指す障害のある人が職業訓練・就職活動支援を受けられる福祉サービスです。SSTは多くの事業所で標準プログラムとして提供されています。
利用料は前年度の収入によりますが、多くの方は無料または低額で利用できます。精神障害者保健福祉手帳がなくても、医師の意見書があれば利用できる場合があります。「就職準備を進めながらSSTも受けたい」という人に特に適した選択肢です。
精神科・心療内科のデイケア
精神科や心療内科が提供するデイケアプログラムでもSSTが行われています。医療的なサポートを受けながらSSTに取り組めるのが強みです。
うつ病や不安障害など精神疾患を併存している場合や、医療的ケアが必要な状況では、デイケアが適切な選択肢となります。通院治療と並行してSSTを受けられるため、体調が安定しながら社会復帰を目指す人に向いています。リワーク(職場復帰)プログラムとしてSSTを提供しているデイケアもあります。
発達障害者支援センター・自治体機関
各都道府県に設置された発達障害者支援センターでも、SSTの情報提供や実施機関の紹介が受けられます。「どこでSSTを受けられるかわからない」「まず相談したい」という人にとって、最初の窓口として活用できます。
政府の発達障害ナビポータル(hattatsu.go.jp)では、全国の支援センター一覧や支援情報を確認できます。診断の有無にかかわらず相談できる機関が多いため、受診前の段階でも活用しやすいです。
地域活動支援センター・民間機関
地域活動支援センターや民間の就労支援機関でもSSTプログラムを提供しているところがあります。グループワーク形式でゲームやロールプレイを取り入れた、参加しやすいプログラムが多いのが特徴です。
就職継続支援A型・B型事業所でもSSTが実施されることがあります。「いきなり就労移行支援は不安」という人でも、よりゆっくりしたペースでスキルを積み上げていける環境が整っています。
大人でもSSTの効果はある?
「子どものころから対人スキルが身についていない。大人になってからSSTを始めても意味があるの?」という疑問を持つ人もいます。ここでは、大人のSST効果について解説します。
大人でもスキルは身につく
SSTは子どもだけでなく、大人でも効果があるとされています。スキルの習得には年齢制限がなく、「繰り返し練習する」という手法自体は成人にも有効です。
ただし、大人のSSTは子ども向けとは異なり、就労場面を中心としたより実践的な内容が中心です。「職場で困っている具体的な場面」から練習できるため、すぐに実生活で応用しやすいというメリットもあります。短期間で劇的に変わることより、「少しずつ使えるパターンを増やしていく」という感覚で取り組むのが長続きのコツです。
効果に個人差があることも知っておこう
SSTの効果は個人差があります。特性の種類・程度・取り組む期間・環境によって、身につきやすいスキルや時間のかかり方は人それぞれです。「すべてのスキルが必ず身につく」とは言えませんが、継続することで自己理解が深まり、対処の引き出しが増えていくことは確かです。
SSTの効果を最大限に引き出すには、プログラムへの継続参加と、実生活での実践(般化)が大切です。また、SSTと並行して環境調整(職場への合理的配慮申請など)も組み合わせると、より安定した就労につながります。SSTはあくまでスキル習得の支援であり、医療的治療とは異なります。困りごとが続く場合は医療機関への相談もあわせて検討してください。
自分でできるSSTの練習方法
支援機関に通えない状況でも、日常生活の中でSST的な練習を取り入れることができます。以下の方法を参考にしてみてください。
場面を想定した一人ロールプレイ
「明日上司に報告しなければならない」「次の面談で意見を伝えたい」という場面を想定し、実際に声に出して練習する方法です。鏡の前や録音を使って自分の表情・声のトーンを確認すると、客観的な振り返りになります。
一人では難しい場合は、信頼できる家族や友人に相手役を頼むのも有効です。「本番のような緊張感でやってみること」「うまくいかなくても何度でも繰り返すこと」がポイントです。
コミュニケーションのパターンをメモする習慣をつける
職場でうまくいった会話の例・うまくいかなかった場面を記録する習慣をつけると、自分の傾向が見えてきます。「この場面ではこう言えばよかった」を振り返ることで、次の場面への対処法を自分で積み上げていけるようになります。
「今日困った場面・自分の反応・よかった点・次はこうしてみる」という4項目を毎日5分でメモするだけでも、SST的な自己観察・フィードバックが習慣化できます。
SSTに関するよくある質問
発達障害のSSTについてよくある疑問にお答えします。
- SSTは診断がなくても受けられますか?
- 機関によります。就労移行支援事業所では医師の意見書があれば診断なしで利用できる場合があります。発達障害者支援センターは診断前でも相談を受け付けている機関が多いです。まず問い合わせてみることをおすすめします。
- SSTは何回くらい通えば効果が出ますか?
- 個人差がありますが、一般的に数か月〜1年程度の継続が効果を実感しやすいとされています。スキルは繰り返しが大切なため、焦らず継続することが重要です。短期集中より長期的に取り組む意識が大切です。
- SSTはグループでしか受けられないですか?
- グループSSTが一般的ですが、個別SSTを提供している機関もあります。グループが苦手な場合は個別対応が可能かどうか、事前に機関に確認してみるとよいでしょう。
- SSTと認知行動療法(CBT)の違いは何ですか?
- SSTは対人スキルの練習に特化しており、ロールプレイや観察学習が中心です。認知行動療法(CBT)は思考パターンや認知の修正にアプローチします。両者は補完し合うことが多く、同時に受けられるプログラムもあります。
- 就労移行支援事業所でのSSTは無料ですか?
- 収入に応じた自己負担があります。前年度の世帯収入が一定以下であれば無料で利用できる場合がほとんどです。詳細は各事業所またはお住まいの自治体窓口に確認してください。
まとめ
SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、発達障害のある人が対人スキルを練習を通じて身につけられる支援方法です。行動分析・教示・モデリング・リハーサル・フィードバック・般化の6ステップで進められ、就労移行支援事業所・精神科デイケア・発達障害者支援センターなどで受けられます。大人でも効果が出るとされており、自己理解を深めながらコミュニケーションの引き出しを増やしていけます。
「どこに相談すればよいかわからない」という場合は、まず発達障害向けの支援制度についてまとめたページも参考にしてみてください。

SSTは「性格を変える」ものではなく「使えるパターンを増やす」練習ですよ。困りごとが続く場合は医療機関にも相談してみてくださいね。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する支援方法・訓練内容は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

