「何を食べる?」「どの仕事にする?」——そんな日常の選択で長時間悩んでしまう。発達障害のある人に多いこの困りごとは、性格ではなく脳の特性が背景にあることが分かっています。

友達のサキちゃん、発達障害があるんだけど、何かを決めるとき毎回すごく時間かかるんだよね。自分でも「なんで決められないんだろう」って悩んでるみたいで。
この記事では、発達障害(ADHD・ASD)の特性と意思決定の困難さの関係、なぜ決められないのかの理由、今日からできる対処法を詳しく解説します。
発達障害と「自分で決められない」の関係
「なんで決められないのか」——その答えは性格ではなく、脳の働き方の違いにあります。ここでは発達障害の特性と意思決定の関係を解説します。
意思決定を担う「実行機能」とは
人が何かを決めるとき、脳は「情報を集める→整理する→優先順位をつける→選ぶ」という複数のステップを踏んでいます。この一連の思考を担うのが実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)と呼ばれる脳の働きです。
実行機能は前頭前野を中心に働き、計画・整理・優先順位の決定・衝動のコントロールなどを司ります。発達障害(とくにADHDやASD)では、この実行機能のはたらきが一般的な人とは異なるため、意思決定に時間がかかったり、選べなくなったりすることが起きやすくなります。
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」でも、ADHDの特性として「計画的に物事を進められない」「課題の段取りが苦手」といった点が挙げられており、これが意思決定の困難さと深く結びついています(こころの情報サイト「発達障害(神経発達症)」)。
ADHDで決められない理由|思考の渋滞
ADHDの人は興味があちこちへ飛びやすく、頭の中に複数のアイデアや不安が同時に浮かんでくるという特性があります。その結果、どの選択肢に集中すればいいかが分からなくなり、思考が「渋滞」した状態になります。
また、ADHDでは優先順位をつける力(実行機能)が弱い場合があります。「どれが一番重要か」「何を先に考えれば良いか」が整理できないため、選択肢が3つ以上になると急に決められなくなることが起こりやすくなります。
さらに、衝動性のある人は「とりあえず決めたい」衝動と「本当にこれでいいのか」という迷いが同時に生じ、葛藤から決断が止まることもあります。
ASDで決められない理由|完璧主義と変化への不安
ASDの人には「絶対に失敗したくない」「最善を選ばなければならない」という完璧主義的な傾向がある場合があります。「もし間違えたらどうしよう」という不安が強く、最後の一歩をなかなか踏み出せなくなるのです。
また、ASDの特性として変化やあいまいさへの不安(「こだわり」の強さ)があります。今の状況から変わることへの抵抗感が、決断を難しくする要因になることがあります。国立障害者リハビリテーションセンターの資料でも、ASDの特性として「限定した常同的な興味・行動」が挙げられており、これが意思決定の場面にも影響することがあります(国立障害者リハビリテーションセンター「各障害の定義」)。
「決められない」はわがままでも意志の弱さでもなく、脳の特性による情報処理の違いです。この視点を持つことで、自己否定から離れやすくなります。

サキちゃんも「なんで自分だけ決められないんだろう」って落ち込んでたんだよね。脳の特性のせいなんだって分かったら、少し楽になれるのかな?

そうですよ。「決められない自分がダメ」ではなく「どんな条件なら決めやすいか」を探していく方が、ずっと建設的なんですよ。
「決められない」が仕事・日常生活に与える影響
意思決定の困難さは日常のあらゆる場面に影響します。特に仕事では、判断力を求められる場面が多いため、以下のような形で困りごととして現れやすくなります。
仕事での「決められない」場面
仕事場面では、以下のような意思決定の困難さが報告されています。
- タスクの優先順位がつけられず、何から手をつけるか分からない
- 複数の選択肢から一つを選ぶ場面で時間がかかり、業務が止まる
- 「この判断が正しいか」不安になり、上司に確認を繰り返してしまう
- 締切が迫っても決断できず、後回しにしてしまう
- 会議で意見を求められると何も言えなくなる
「決断が遅い人」「優柔不断な人」と評価されることで自己肯定感が下がり、さらに決めることへの恐怖感が強まるという悪循環になることも少なくありません。
日常生活での「決められない」場面
日常生活でも、小さな選択の場面で長時間悩んでしまう経験を持つ方が多くいます。
- 外食のメニューが決められず、長い時間メニューを眺め続ける
- 服を選べず、毎朝支度に時間がかかってしまう
- 転職・引越しなどの大きな決断を先延ばしにしてしまう
- 「どちらでもいい」と人に丸投げして後で後悔する
- ネットショッピングで商品を選べず、カートに入れたまま何日も放置する
こういった場面での困りごとは、「性格の問題」として片付けられがちですが、脳の特性による情報処理の違いが原因であることが多くあります。
発達障害で決められないときの対処法
「決められない」状況を少しずつ改善していくための対処法を、すぐに試せるものから紹介します。特性によって合う方法は異なるので、自分に合うものを試してみてください。

サキちゃんのために何か対処法を教えてあげたいんだけど、どんな方法が効くのかな?

特性によってやりやすい方法が違うので、まずはいくつか試してみることが大切ですよ。
選択肢を2〜3つに絞る
選択肢が多いほど、脳への負担は大きくなります。まず「これは今決めなくていい選択肢か」を分けて、最終的に2〜3つに絞ることで、選びやすくなります。外食でも転職先でも、まず「候補を削る作業」から始めると、次第に決断しやすくなります。
ADHDの人には、思考が広がりすぎてしまう傾向があるため、「この3つ以外は今日は考えない」とルールを決めてしまうことが有効です。
考える時間と決める時間を分ける
「迷いながら決める」のではなく、「今は考えるだけ」「〇時になったら決める」と時間を分けて考える方法が効果的です。
例えば、転職について考えるなら「今夜は情報を集める」「明日の朝、3つの選択肢から1つを選ぶ」と決めておくと、「迷い続ける時間」に終わりが来て、決断のトリガーになりやすくなります。タイマーを使って「10分考えたら決める」という方法も、特に衝動性が気になる人には試しやすい方法です。
「完璧な正解」を探すのをやめる
特にASDの傾向がある人は「絶対に正しい選択をしなければ」という思いが強く、正解探しで時間を使い果たしてしまうことがあります。
「完璧な正解より、今の自分にとって十分に良い選択(グッドイナフ)を選ぶ」という発想の転換が役立ちます。「もし違ったら後で変えればいい」「失敗しても修正できる」と自分に言い聞かせる練習を続けると、決断の負担が少しずつ下がっていきます。
紙に書き出して頭の外に出す
「頭の中で考え続ける」状態では、情報が整理できないまま堂々巡りになりがちです。選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを紙に書き出すと、脳内の情報が整理されやすくなります。
書き出したら「○」「×」「△」など記号で評価を付けていくと、どの選択肢が自分にとって良いかが見えやすくなります。「書いて整理する」習慣は、ADHDにもASDにも効果的な外部化の方法として知られています。
「迷ったときのマイルール」を決めておく
毎回ゼロから考えると脳の負担が大きくなります。そこでよく迷う場面ごとに「迷ったときはこうする」というマイルールを事前に決めておく方法があります。
例えば「ランチは行きたい気持ちが強い方を選ぶ」「どちらかを選べないときはコインで決める」「転職の選択は2週間後に決める」といった自分なりのルールを持つと、判断の負荷を下げた状態で選択できるようになります。これはワーキングメモリへの負担を減らす観点からも有効です。
仕事での意思決定を楽にする環境づくり
個人の対処だけでなく、仕事環境を整えることで「決められない」負担を大きく減らせることがあります。以下のポイントを参考にしてみてください。
判断の枠組みを上司・チームと共有する
「自分でどこまで決めていいか」が不明確だと、迷いが生じやすくなります。自分が判断してよい範囲(権限の範囲)を上司と事前に決めておくと、「これは自分で決める」「これは確認が必要」と切り分けやすくなります。
「〇〇の場合は自分で決める、それ以外は相談する」という基準を作っておくことで、不必要に悩む場面を減らすことができます。
決断の期限(デッドライン)を設ける
締切がないと「まだ考えられる」と延々と迷い続けてしまいます。自分で「〇日〇時までに決める」という期限を設定するか、上司やチームメンバーに「明日の昼までに回答します」と宣言してしまう方法が有効です。
デッドラインを外部から設けることで、「まだ考えられる」という思考のループを強制的に終わらせることができます。特にADHDの人は外からの締切に強く反応するので、意識的に活用しましょう。
合理的配慮として職場に相談する
障害者雇用促進法に基づき、障害のある人が職場で働きやすくなるための「合理的配慮」を求めることができます。意思決定の困難さに関しても、
- 判断が必要な場面では選択肢を文書で提示してもらう
- 急ぎの判断を求められる場面を減らしてもらう
- 定期的に1on1で優先順位を一緒に整理してもらう
といった配慮を依頼できる可能性があります。障害を開示してオープン就労を選んでいる場合、こうした配慮を積極的に活用することで仕事のパフォーマンスが上がりやすくなります。
「自分で決められない」を支える制度・相談先
個人の努力だけでなく、専門家や支援機関の力を借りることが、意思決定の困難さを和らげる近道になることもあります。
発達障害者支援センターへの相談
各都道府県に設置されている発達障害者支援センターでは、発達障害のある人や家族の相談を受け付けています。意思決定の困難さ、仕事の困りごと、生活上のつまずきについて、専門スタッフが個別に相談に乗ってくれます。診断を受けていなくても相談できる場合があります。
「誰かと一緒に考える」という形で意思決定を支援してもらうことが、支援センターの重要な役割の一つです。厚生労働省の「発達障害者支援施策」のページから各地の支援センターを探すことができます(厚生労働省「発達障害者支援施策」)。
就労移行支援での「決める力」トレーニング
就労移行支援事業所では、障害のある人が就職を目指すための訓練・支援が提供されています。意思決定や自己理解に特化したプログラムを設けている事業所もあり、「自分の思考パターンを知り、決断しやすくなる練習」ができる場として活用できます。
就労移行支援を利用することで、支援員と二人三脚で仕事選びや職場定着まで一緒に取り組むことができます。障害者手帳を持っていると利用しやすくなる制度です。
医療機関への受診を考えるタイミング
「決められない」という困りごとが日常生活や仕事に大きく支障をきたしている場合、あるいは強い不安やうつ症状が伴っている場合には、医療機関(精神科・心療内科)への相談を検討してください。
診断を受けることで、自分の特性の理解が深まり、職場での合理的配慮の申請やメディカルサポートを受けやすくなることがあります。
発達障害で自分で決められないに関するよくある質問
「自分で決められない」と発達障害に関して、よく寄せられる質問をまとめました。
- 発達障害があると必ず自分で決められなくなりますか?
- 発達障害があっても意思決定が得意な人もいます。「決められない」の程度や場面は人によって大きく異なります。特性の種類や強さ、環境によって変わるため、一概に「発達障害=決められない」とは言えません。
- 自分で決められないのは性格の問題ですか?
- 発達障害のある人の「決められない」は、多くの場合、性格よりも脳の特性(実行機能のはたらきの違い)が大きな要因です。自分を責めるよりも、特性に合った対処法を探すことが大切です。
- ADHDとASDで「決められない」理由は違いますか?
- ADHDでは思考の広がりや優先順位づけの困難さが主な理由であることが多く、ASDでは完璧主義や変化への不安が理由であることが多いです。ただし個人差が大きく、どちらの特性もあわせ持つ人もいます。
- 仕事で決断が遅いと評価が下がりませんか?
- 意思決定に時間がかかることを隠すより、「選択肢を整理してから確認します」「〇時間ください」と期限を伝えた上で決断する方法が職場では有効です。合理的配慮として相談できる場合もあります。
- 決められないことで転職を繰り返してしまうのですが、どうすればいいですか?
- 転職を繰り返す場合は、転職の理由(環境が合わない、仕事内容が合わない等)を整理することが大切です。就労移行支援を利用して自己理解を深めてから転職活動をすると、長く働ける仕事を選びやすくなります。
まとめ
発達障害のある人が「自分で決められない」背景には、実行機能の違いや完璧主義・不安の強さといった脳の特性があります。これは性格や意志の弱さではありません。選択肢を絞る、時間を区切る、書き出して整理するといった対処法を試しながら、職場での合理的配慮や支援機関の活用も視野に入れてみてください。
発達障害に関する詳しい支援制度の情報は、発達障害の就労支援についてまとめたページもあわせて参考にしてください。

サキちゃんも、まずは「なぜ決めにくいのか」を知ることから始めてみてくださいね。困りごとが続くときは、専門家に相談してみることも大切ですよ。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

