発達障害と記憶力の関係|ADHD・ASDの特性と対処法

「なぜこんなに忘れやすいんだろう」「仕事で何度も同じことを聞いてしまう」と悩んでいませんか。発達障害のある人の記憶力には、脳の働き方が関係しています。

ワナちゃん
ワナちゃん

友達のサキちゃん、発達障害があって「仕事で同じことを何度も忘れてしまう」って悩んでるんだ。記憶力って鍛えられないのかな?

この記事では、発達障害(ADHD・ASD)と記憶力の関係、ワーキングメモリの仕組み、仕事での困りごと、そして記憶に頼らない対処法をわかりやすく解説します。

発達障害と記憶力の関係|ワーキングメモリとは

発達障害のある人の記憶力の困りごとは、「ワーキングメモリ(作業記憶)」と深く関係しています。ここではその仕組みと発達障害との関連を解説します。

ワーキングメモリとは「脳のメモ帳」

ワーキングメモリ(作業記憶)とは、外部から入った情報を一時的に保持しながら処理する脳の機能です。「脳のメモ帳」とも呼ばれています。たとえば、会議で聞いた指示を頭に置きながら同時に議事録をとる、電話番号を一時的に覚えてダイヤルする、といった行動を支えています。

ワーキングメモリは大きく3つのコンポーネントで構成されています。「言語性ワーキングメモリ(音韻ループ)」「視覚性ワーキングメモリ(視空間スケッチパッド)」「エピソーディック・バッファ」の3つが連携して情報を処理します。発達障害のある人ではこの機能が弱く現れやすい傾向があります。

なお、ワーキングメモリは短期記憶とは異なります。短期記憶が「情報をそのまま保持する」のに対し、ワーキングメモリは「保持しながら処理する」という動的な機能です。武田薬品「大人の発達障害ナビ」のワーキングメモリ解説では、ワーキングメモリが低下することで日常や仕事に影響が出やすいことが示されています。

発達障害でワーキングメモリが弱くなるのはなぜか

ADHDやASDなどの発達障害は、脳の神経発達の違いによって生じます。国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」によれば、発達障害は生まれつきの脳・神経の発達の違いによって特性が現れるものです。

ADHDでは注意機能と実行機能の弱さがワーキングメモリに影響します。注意がそれやすいため、情報が脳のメモ帳に書き込まれる前に抜け落ちてしまいます。一方、ASDでは感覚処理や情報の優先順位付けの違いがあり、複数の情報を同時に保持・処理することに難しさが出やすいことが知られています。

ただし、ワーキングメモリの弱さが必ずしも発達障害のみを意味するわけではありません。加齢・睡眠不足・強いストレスなどでも低下することがあります。気になる場合は専門機関への相談をおすすめします。

ADHDの記憶力の特徴|注意とワーキングメモリの弱さ

ワナちゃん
ワナちゃん

サキちゃん、ADHD由来の忘れっぽさが仕事でも出てて大変そうなんだよね。ADHDって記憶力に何か特有のことがあるの?

ワークさん
ワークさん

ADHDでは「注意が向いていなかった情報は記憶に残りにくい」という特性があります。忘れやすさの多くは意欲の問題ではなく、脳の仕組みによるものなんですよ。

以下では、ADHDの記憶力にまつわる主な特徴を解説します。

注意が向いていない情報は覚えにくい

ADHDの記憶の困りごとで最も多いのが、「聞いたはずなのに覚えていない」「さっき言われたことがすぐに抜ける」という状態です。これは記憶力そのものが低いというよりも、「情報が入力される前に注意がそれてしまう」ことが主な原因です。

脳が情報を長期記憶に移すには、まず短期記憶(ワーキングメモリ)に情報を保持する必要があります。しかしADHDでは注意機能の弱さから、情報がワーキングメモリに書き込まれる前に別のことに気が向いてしまいます。結果として「聞いた瞬間は分かった気がしたのに、後で全く覚えていない」という現象が起きやすくなります。

一方で、強い興味関心がある対象については集中力が高まり、情報が記憶に残りやすくなるという特徴もあります。「好きなことには驚くほど詳しい」というのはADHDの人によく見られる傾向です。

複数の情報を同時に保持するのが苦手

ADHDではワーキングメモリの容量が小さくなる傾向があり、複数の情報を同時に頭の中に保持することが難しくなります。たとえば「Aさんにこの資料を持っていって、Bのデータを確認してから報告して」という複合指示を受けたとき、最初の指示に集中するあまり後の指示を忘れてしまうことがあります。

また、考えながら別の作業をする「マルチタスク」もワーキングメモリへの負荷が高くなります。タスクを切り替えるたびに前の情報が脱落しやすく、仕事のミスにつながりやすいです。これは怠けているのではなく、脳の処理容量の問題です。

ADHDのマルチタスクの苦手さについては、以下の記事も参考になります。

ADHDがマルチタスク苦手な理由と対策を解説のアイキャッチ画像 ADHDがマルチタスク苦手な理由と対策を解説

ASDの記憶力の特徴|突出した強みと苦手の両面

ASD(自閉スペクトラム症)の人の記憶は、ADHDとは異なる特徴が見られます。以下では、ASD特有の記憶の強みと苦手の両面を解説します。

特定分野への突出した記憶力

ASDのある人の中には、特定の分野や興味のある事柄について驚異的な記憶力を発揮する人がいます。電車の路線図を一度見ただけで記憶する、好きなジャンルのデータを完璧に暗記する、といった事例がよく報告されています。

これは「こだわり」と呼ばれるASDの特性と深く関係しています。強い関心がある対象には集中力が向きやすく、繰り返し情報を処理することで記憶に定着しやすくなります。また、視覚的な情報の処理が得意な人では、見たものを「写真のように」記憶する(いわゆる映像記憶)ケースも報告されています。

この特性は、データ管理・品質チェック・専門知識を活かした仕事において強みになる場合があります。

興味のない情報や聴覚情報の処理が苦手

一方で、興味の外にある情報については記憶に残りにくいという特性があります。仕事上の指示や日常的な連絡事項が「重要な情報として処理されにくい」ため、関心が薄い情報が記憶に残らないことがあります。

また、聴覚情報の処理が苦手な人では、口頭での指示をその場では理解しているように見えても後になって忘れてしまう、というパターンがあります。これは「耳から入る情報を処理してワーキングメモリに保持する」ことへの難しさと関係しています。視覚的な情報(書いたもの・図など)のほうが記憶に残りやすい傾向があります。

発達障害と記憶力が関係する仕事の困りごと

ワナちゃん
ワナちゃん

サキちゃんが一番困ってるのって、仕事で具体的にどういう場面なんだろう?よくある困りごとを知りたいな。

ワークさん
ワークさん

仕事での困りごとは人によって様々ですが、特によく聞く場面がいくつかあります。パターンを知っておくと対策を立てやすいですよ。

以下では、発達障害と記憶力が絡む代表的な仕事上の困りごとを挙げます。

口頭指示を忘れてしまう

「上司から口頭で指示を受けたのに、後になって内容を思い出せない」という状況は、発達障害のある人に非常に多く見られます。指示を受けた瞬間は理解しているのですが、その後別の作業に移ったり、少し時間が経ったりすると記憶が薄れてしまいます。

これはADHDのワーキングメモリの弱さ、あるいはASDの聴覚情報処理の特性と関係しています。「怠けている」「聞いていない」ではなく、脳の情報処理の特性によるものです。何度も同じことを聞いて申し訳なさを感じている人も多いでしょう。

仕事の手順を覚えるのに時間がかかる

新しい仕事の手順や、頻度が低い業務のやり方が覚えにくいという困りごともあります。発達障害のある人は、手順を「言語化・抽象化して記憶する」よりも「実際にやりながら体で覚える」ほうが得意な場合が多いです。

特に、マニュアルが文字だらけで視覚的な整理がない場合や、口頭のみで説明される場合は覚えにくい傾向があります。一方で、手順が図解されていたり、実際に操作しながら覚えられる環境では習得しやすくなることがあります。

「仕事が覚えられない」という悩みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

仕事が覚えられないのは発達障害?原因と対処法を解説のアイキャッチ画像 仕事が覚えられないのは発達障害?原因と対処法を解説

約束や締め切りを忘れやすい

「後でやろう」と思っていた作業をそのまま忘れてしまう、今日が締め切りだったことを直前まで意識できないという状態も、ワーキングメモリと時間感覚の問題から生じやすいです。

ADHDでは、現在の作業への没入(過集中)によって、他のタスクや時間の流れを意識しにくくなることがあります。また、「未来の出来事を現在の行動に結びつける」能力(展望記憶)が弱く現れやすいという特性も関係しています。スケジューラーやリマインダーの活用が特に効果的な場面です。

記憶力の困りごとへの対処法|記憶に頼らない工夫

発達障害のある人の記憶の困りごとに対しては、「記憶力を鍛えるよりも、記憶に頼らない仕組みを作ること」が最も効果的とされています。ここでは具体的な対処法を紹介します。

すぐにメモを取る習慣をつける

最もシンプルで効果的な対処法は、「情報を受け取ったその場でメモを取ること」です。ワーキングメモリへの依存をゼロにすることで、情報の脱落を防げます。「後でメモしよう」では抜けてしまうため、その場ですぐに書くことが重要です。

メモの方法は人によって合うものが異なります。手書きのノートが合う人、スマートフォンのメモアプリが使いやすい人、音声メモが便利な人と様々です。自分に合った方法を試してみてください。重要なのは「メモを取ること」自体を習慣化することです。

発達障害のある人に向けたメモの取り方の工夫については、以下の記事が参考になります。

発達障害のメモの取り方|苦手な理由とコツ・続ける仕組みを解説のアイキャッチ画像 発達障害のメモの取り方|苦手な理由とコツ・続ける仕組みを解説

情報を視覚化・外部化する

頭の中に情報を置いておくのではなく、「外に出して目で見られる形にする」ことが記憶の代替になります。To-Doリスト・カレンダー・ホワイトボードなど、仕事で必要な情報を常に目に入る場所に置くことで、覚えていなくても見ればわかる状態を作ります。

具体的な方法の例を挙げます。

情報の視覚化・外部化の方法例
  • デスクに「今日やること」リストを貼る
  • スマホのカレンダーにリマインダーを設定する
  • 仕事の手順をマニュアル化してすぐ見られる場所に置く
  • 業務ログをチャットやメモで残す(口頭でなく文字で)
  • 週単位のスケジュールを毎朝確認するルーティンを作る

リマインダー・アラームを積極的に使う

約束・締め切り・定期タスクを「忘れないように覚えておく」のではなく、「時間になったらデバイスが知らせてくれる仕組み」に切り替えることが効果的です。人間の記憶に頼らず、機械に任せる発想です。

スマートフォンのアラーム・Googleカレンダーの通知・タスク管理アプリのリマインダー機能などを組み合わせると、記憶力に頼らないスケジュール管理が可能になります。重要な締め切りには「1日前」「1時間前」の2重アラームを設定するのも有効な方法です。

口頭指示を「文字で確認」する習慣

口頭で受けた指示をメモした後、「確認の意味でチャットやメールで内容を送り返す習慣」をつけると、記憶への依存を大きく減らせます。「先ほどの指示を確認のために送ります」と一言添えてメッセージを送れば、相手にも丁寧さが伝わります。

また、会議で重要な決定事項があった際は、会議後に議事メモをメールで共有するよう職場に提案することも、合理的配慮の観点から相談できます。口頭指示を文字に変える工夫は、自分だけでなく周囲にとっても情報共有の精度を上げるメリットがあります。

ADHDの記憶力についてさらに詳しく知りたい方へ

本記事はADHDとASDを横断した発達障害全般の記憶力について解説しました。ADHDのワーキングメモリと記憶力の関係について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

ADHDの記憶力が低い理由とワーキングメモリの関係を解説のアイキャッチ画像 ADHDの記憶力が低い理由とワーキングメモリの関係を解説

また、発達障害の記憶の困りごとは、適切な職場環境や仕事の選び方でも大きく改善できます。発達障害のある方に向いている仕事の選び方については、発達障害カテゴリのまとめ記事も参考にしてください。

発達障害と記憶力に関するよくある質問

発達障害と記憶力について多く寄せられる疑問に答えます。

発達障害があると記憶力は悪くなるのですか?
一概に「記憶力が悪い」とは言えません。ワーキングメモリの弱さや注意機能の違いから情報が定着しにくい場面がある一方、特定分野への強い記憶力を持つ人もいます。特性は個人差が大きいです。
ワーキングメモリを鍛えることはできますか?
現時点では「ワーキングメモリ自体をトレーニングで根本的に向上させる」手法は研究段階です。それよりもメモや外部化ツールを使い「記憶に頼らない仕組みを作る」アプローチが実践的とされています。
発達障害の忘れっぽさと加齢による物忘れの違いは?
発達障害による記憶の困りごとは幼少期から一貫したパターンがあり、進行しにくいのが特徴です。加齢による物忘れは徐々に進行し、日常生活全般に支障が出やすいです。心配な場合は専門医への相談が安心です。
職場での記憶の困りごとは合理的配慮として伝えられますか?
はい、伝えることができます。「口頭指示を書面でも共有してほしい」「手順をマニュアル化してもらいたい」といった配慮は合理的配慮として相談可能です。障害開示(オープン就労)の場合は特に協力を得やすいです。
ASDの突出した記憶力は仕事でどう活かせますか?
データ管理・品質チェック・専門知識を活かした業務・資料作成など、精度と一貫性が求められる仕事で強みになる場合があります。興味の持てる分野で専門性を積み上げると特性が活きやすくなります。

まとめ

発達障害のある人の記憶の困りごとは、「記憶力が低い」という単純な問題ではなく、ワーキングメモリ・注意機能・情報処理の特性が関係しています。ADHDでは「注意が向いていない情報が記憶に残りにくい」特性があり、ASDでは「特定分野への突出した記憶力と、興味外の情報が入りにくい」という両面が見られます。大切なのは「記憶に頼らない仕組みを作ること」です。メモ・リマインダー・視覚化などのツールを組み合わせることで、困りごとは大きく減らせます。

ワークさん
ワークさん

記憶の困りごとは、ツールと環境の工夫でかなり楽になりますよ。心配な症状がある場合は、ぜひ専門機関にご相談くださいね。

本記事はワナワーク編集部(キャリア相談歴8年・国家資格キャリアコンサルタント保有)が執筆・監修しています。

この記事の監修者

ワナワーク編集部

ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。

本記事の免責事項

本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する職種・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。