「仕事の手順を何度教えてもらっても覚えられない」「メモを取ってもすぐに見失う」そんな悩みを抱えていませんか。実は発達障害の特性が、仕事を覚えるうえで特有の困難を生み出していることがあります。

友達のコウくん、発達障害があってさ。仕事の手順がなかなか覚えられないって悩んでるんだよね。努力してるのに何でだろうって。
この記事では、発達障害(ADHD・ASD)がなぜ仕事を覚えにくくするのか、その原因と発達障害のある人が実践できる具体的な対処法を解説します。
発達障害があると仕事が覚えられないのはなぜ?
「努力が足りない」のではなく、脳の情報処理の特性がそのまま「覚えにくさ」に直結しています。ここでは主に関わる2つの要因を解説します。
ワーキングメモリの弱さ
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら作業を進める脳の仕組みのことです。「脳内の作業デスク」と考えると分かりやすいでしょう。ADHDのある人はこのワーキングメモリの容量が小さい傾向があり、手順を口頭で教えてもらってもステップ①を覚えている間にステップ②・③が抜け落ちてしまうことがあります。
発達障害ナビポータルの解説によれば、ADHDの特性として「一度に複数のことを頼まれるとそのうちのいくつかを忘れてしまうことがある」という点が明記されています(発達障害ナビポータル「注意欠如多動症」)。これはさぼりや意欲の問題ではなく、脳の処理特性によるものです。
手順の暗黙のルールが読み取りにくい
ASDのある人は、言葉にされていない「当たり前の前提」や暗黙の手順を読み取ることが苦手な場合があります。「この後はこうするのが普通」「前後の文脈から察して」といった説明を省いた口頭指示では、全体像をつかみにくいのです。
また、不注意の特性から「気づいたら別のことを考えていた」「指示を聞いている途中で注意がそれた」という場面も起きやすく、記憶する以前の段階で情報を受け取り損ねることもあります。

コウくん「頑張って聞いてるのに、気づいたら別のこと考えちゃう」って言ってたなあ。やっぱり特性の話だったんだね。

そうなんですよ。「覚えようとしていない」のではなく、脳の仕組み上、情報が定着しにくい状態なんです。工夫次第でかなり改善できますよ。
発達障害と「仕事が覚えられない」よくある場面
発達障害のある人が職場で経験しやすい「覚えられない」の困りごとにはいくつかのパターンがあります。自分(または友人・家族)に当てはまるものを確認してみてください。
口頭の指示だけでは頭に残らない
「〇〇をして、次に△△して、そのあと□□をお願い」と口頭で連続した指示を受けると、途中で何を言われたか分からなくなる状態です。ワーキングメモリへの負荷が高く、指示の数が3つ以上になると一気に難しくなることがあります。
メモを取っても見返すのを忘れる
一生懸命メモを取ったのに、肝心の作業前にメモの存在を忘れてしまうケースです。「メモをした」という行動自体がワーキングメモリから外れてしまうため、メモを「自動的に目に入る仕組み」と組み合わせることが重要です。
手順通りにやっているのに間違える
手順が頭に入っているつもりでも、「どのタイミングで何をすれば正解か」という文脈の読み取りが苦手なことがあります。特にASDの特性として、状況に応じた柔軟な判断(例外対応)が難しい場面で迷いやすい傾向があります。
何度教えてもらっても同じ失敗を繰り返す
「前にも言ったよね」と言われるほど同じミスが繰り返される場合、意識や努力の問題ではなく情報を長期記憶に転送する過程でつまずいている可能性があります。1回の口頭説明ではなく、繰り返し確認できる仕組みが効果的です。
発達障害のある人が実践できる対処法7選
脳の特性を「変える」ことよりも、特性に合わせた「仕組み」を作ることが継続のカギです。以下の7つの方法を、自分に合うものから試してみてください。

コウくんに教えてあげたい!どんな工夫をすれば覚えやすくなるんですか?

脳のメモリへの負荷を外に逃がす、つまり「頭の外に記憶の仕組みを作る」のが基本戦略ですよ。
①「とりあえずメモ」と「まとめメモ」を使い分ける
指示を受けるときは、完璧にまとめようとせずキーワードや数字を手書きで断片的に書き留める「とりあえずメモ」を作ります。業務が終わった後や休憩時間に、その断片を整理した「まとめメモ」に清書することで、ワーキングメモリへの負担を2段階に分散できます。
聞きながら書くマルチタスクが難しい場合は、上司や先輩に「録音させてもらえますか」と事前に相談するのも一つの方法です。
②手順を「番号付きの一覧」でマニュアル化する
発達障害ナビポータルが推奨する「課題分析(システマティック・インストラクション)」では、作業の手順を細かくステップに分けて番号で整理することが基本とされています(発達障害ナビポータル「システマティック・インストラクション」)。「〇〇をする→△△する→確認する」を数字で並べた個人用マニュアルを作り、作業前に必ず確認する習慣をつけましょう。
③タスクを小さく分解して「今やること」だけに集中する
「この資料を完成させる」ではなく「まずデータを入力する」「次に表を作る」という形で作業を小ステップに分解すると、ワーキングメモリへの負荷を最小化できます。一度に保持する情報量を「今の1ステップだけ」に絞るのがポイントです。付箋やタスクアプリで「次のアクションのみ」を表示する工夫も有効です。
④メモを「自動的に目に入る」場所に置く
メモを見返す習慣が定着しない場合、「メモを確認する」という行動自体を自動化する仕組みが必要です。具体的には、PCのモニター横に貼る付箋、スマートフォンのリマインダー通知、机の上に常に開いたままのノートなど、作業の導線上に自然に目が向く場所を選びましょう。
⑤「指示はテキストで」と職場にお願いする
現在、障害のある従業員への「合理的配慮」の提供は事業主に義務づけられています(厚生労働省「発達障害者支援施策」参照)。「指示をメール・チャットで残してほしい」「一度に伝える指示は1〜2個に絞ってほしい」といった配慮依頼は、法的に根拠のある正当なリクエストです。診断がある場合は、産業医や人事担当者を通じて相談してみましょう。
⑥ミスのパターンを記録して「失敗マニュアル」を作る
同じミスが繰り返される場合、そのミスを「失敗ノート」として記録し、なぜ起きたかのパターンを把握することが有効です。「〇〇の直前に確認を忘れる」「△△のとき手順を飛ばしがち」と特定できれば、チェックリストに「ここで必ず止まる」ポイントとして組み込めるようになります。
⑦仕事の流れを「見える化」するチェックリストを作る
繰り返す定型業務は、手順をチェックリスト化して毎回そのとおりに実行する習慣が特に効果的です。「覚える」ことへの依存をゼロにし、チェックリストを完遂することを目標にすると、ワーキングメモリに頼らなくて済む状態を作れます。パイロットや外科医がチェックリストを使うのと同じ発想です。
仕事が覚えられない困りごとに関わる支援制度
個人の工夫だけでは限界がある場合、公的な支援機関やサービスの活用も有効です。以下に代表的な窓口を紹介します。
発達障害者支援センター
各都道府県に設置されており、診断の有無にかかわらず相談できる機関です。仕事の困りごとを具体的に整理し、職場での対策や支援機関の紹介を受けられます。「どこに相談すればいいか分からない」という場合の最初の窓口として活用できます。
就労移行支援
障害のある人が一般就労を目指すための訓練・支援を受けられる事業所です。メモの取り方・タスク整理・職場コミュニケーションなどのビジネスマナー訓練を体系的に学べる点が特徴で、仕事を覚えるための実践的なスキルを段階的に習得できます。
障害者雇用(オープン就労)での働き方
障害を開示して就職することで、「指示は文字で」「手順書を事前に共有してほしい」といった具体的な配慮を職場に依頼しやすくなります。配慮内容を明確にした雇用契約のもとで働けるため、「覚えられない」という困りごとを組織全体で対応する体制が整いやすいのが特徴です。
「仕事が覚えられない」発達障害のよくある質問
- 仕事が覚えられないのは発達障害だけが原因ですか?
- 必ずしもそうではありません。睡眠不足・ストレス・環境的な要因(指示が不明確、業務量が多すぎるなど)でも同様の症状が起きます。ただし、繰り返す困りごとが特性由来だと感じる場合は、発達障害専門の医療機関に相談することも一つの選択肢です。
- 診断がなくても職場に配慮を求めることはできますか?
- 診断がなくても困りごとを具体的に伝えて配慮を求めることは可能です。ただし、障害者雇用枠での配慮には原則として診断書や手帳が必要です。発達障害者支援センターに相談すると、診断前でも使える支援や相談窓口を案内してもらえます。
- メモを取っても効果がないのはなぜですか?
- メモを「取る」こと自体は正しいのですが、見返す習慣と組み合わせないと効果が薄くなります。メモは「書いたら終わり」でなく、作業前に確認する導線を作ることが重要です。また、指示を受けながら書くマルチタスク自体が負担の場合は、後で録音を文字に起こす方法も有効です。
- 仕事の覚えにくさはトレーニングで改善できますか?
- ワーキングメモリそのものを大幅に鍛えることは難しいとされていますが、「外部の仕組みで補う」アプローチ(チェックリスト・マニュアル化・リマインダー活用など)により実際の業務パフォーマンスを向上させることは十分に可能です。就労移行支援では実践的なスキル訓練を受けられます。
- ADHDとASDではどちらが仕事を覚えにくいですか?
- 一概には言えません。ADHDはワーキングメモリの弱さから来る短期記憶の困難、ASDは暗黙の手順や文脈の読み取り困難が主な原因として現れやすい傾向があります。どちらも特性は個人差が大きく、同じ診断名でも困りごとのパターンは異なります。
まとめ
発達障害のある人が「仕事を覚えられない」のは、努力不足ではなくワーキングメモリの弱さや暗黙のルールの読み取りにくさといった特性が関係しています。脳の特性を変えようとするより、外部の仕組みで補う「見える化・マニュアル化・リマインダー化」が継続的に効果を発揮します。
職場への配慮依頼は法律に基づく正当な権利であり、発達障害者支援センターや就労移行支援を活用することで、個人の工夫だけでは難しい部分もサポートしてもらえます。「覚えられない自分が悪い」ではなく、自分の特性に合った環境と仕組みを整えることが、長く働き続けるための出発点です。
発達障害と仕事の困りごと全般については、発達障害と働くことについての総合ページもあわせて参考にしてみてください。

コウくんにも、まずは小さな「仕組み作り」から試してもらえたらいいですね。困りごとが続くときは専門家にも相談してみてくださいね。
ワナワーク編集部
ワナワーク編集部は、国家資格キャリアコンサルタント(キャリア相談歴8年)を有する就職・転職支援の専門家チームです。発達障害・精神疾患のある方の「働く」に寄り添い、厚生労働省などの公的機関や医療の一次情報をもとに、信頼できる情報をお届けしています。
本記事は就職・キャリア支援の観点から作成されたものであり、医療的助言ではありません。診断・治療・服薬等については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事内で紹介する対処法・働き方は一般的な傾向に基づくものであり、個人差があります。

